「Fukushima50」公開直前インタビュー 渡辺謙さん

「自分が楽しめることをみんなで共有したい」。3月6日公開の映画「Fukushima50(フクシマフィフティ)」で、事故当時の東京電力福島第1原発所長、故吉田昌郎(まさお)さんを演じた渡辺謙さんが被災地支援や復興への思いなどについて語った。
―宮城県気仙沼市でカフェを経営するなど、東日本大震災の被災地との関わりを持ち続けていらっしゃいます。謙さんにとって「復興に向けて大事なこと」とは何だと考えますか。
復興とは、決して「元通りに戻ること」ではないと思っています。過疎化や人口流出は被災地に限らず、地方のどこにでもあることです。
ただし被災地の場合は、その問題がより明確に出てきてしまう。では、それらを食い止めるためにはどうすればいいのか、とよく考えるのですが、それは地域によって解決方法が変わってきます。
はっきりしているのは、どれだけ魅力的な街にしていくかということ。観光や食、産業でもいい。その街が持つ潜在力を発掘して育て、発信していく。周辺との連携も大切です。このプロセスがあれば、どの地域であろうと再生は可能だと思います。
―ハリウッド映画「インセプション」(2010年、クリストファー・ノーラン監督)で共演したレオナルド・ディカプリオさんをはじめ、ジョージ・クルーニーさんなど米国の俳優は社会貢献活動にも熱心です。日本でこういった活動をする俳優はまだまだ少ないと思いますが、どう感じていますか。
いや、彼らとはまるで規模が違いますよ。多額の寄付や学校建設というレベルの支援までには、なかなか考えが及びません。
ただ、私はそれよりも自分ができる範囲のことを継続してやっていくことに意味があると考えています。
気仙沼のカフェも6年続けていますが、決して順風満帆なことばかりではありません。私がニューヨークに半年間行っている時は、やはり少しガタガタとしました。
それでも投げ出さず、諦めないで続けることが一番の大きなテーマになっています。それを自分でも面白がって、楽しみながら続けることが大切です。
―「ボランティア」「社会貢献」と肩に力を入れず、自分も楽しむことがポイントなのですね。
そうです。自分でも楽しめないと、人を楽しませることはできません。
やはり、一人の人間ができることには限りがあります。その限りがある中で、自分が面白がっていることや楽しもうとしていることを、みんなで共有したいという一点に尽きると思いますね。
そうやって少しずつ広まったり深まっていくことが、私と彼らとの復興になっていくと思います。
―出身地の新潟と、福島を結ぶJR只見線の復興支援にも尽力されていますね。古里はどんなところだったのでしょうか。
ものすごい田舎で、冬になると雪が3~4メートルも積もる豪雪地帯です。そういう場所で、とにかくよく遊んでいた子ども時代でした。
学校が終わればランドセルを放り投げて、日が暮れるまで森や川べりを走り回っていました。割と昔から、どんな場所であろうと面白がって生活ができるタイプみたいです。
―そういった古里の原風景があるからこそ、こうして東北にも共感し、被災地支援をしているのでしょうか。
それはあるかもしれませんね。自然災害は何かの啓示のような気もしていますし、もちろん減災や防災は必要ですが、そういう現象をどう受け止めて向き合っていけばいいのかと考えることがあります。
―映画「Fukushima50」はメッセージ性を強く感じる作品ですが、仕事を選ぶ際はどんなところを基準にしていますか。
あまりメッセージ性ばかりを前面に押し出すよりも、きちんとした人間ドラマをつくる方を優先したいですね。そうじゃないと作品の芯にあるメッセージが伝わりませんし、メッセージだけ伝えたいならドキュメンタリーでいい。
映画作品であるなら、多くの人の心に残る人間ドラマの中に、しっかりしたメッセージを含ませることが大切です。
これまでも吉田所長をモチーフにしたドキュメンタリー的な作品を要求されたことはありましたが、今回の映画は人間ドラマが素晴らしく、よく描けていたから出演を決めました。この人間ドラマがあるからこそ、深いメッセージも伝わると思ったからです。
―海外でも活躍する謙さんから、福島の将来を担う若者たちにメッセージをお願いします。
若い頃はあまり深く考え過ぎずに、いろんな世界に思い切って飛び込んでいくくらいの気持ちがあっていいと思います。
今の若い人たちを見ていると、少し自分の道を狭め過ぎているのではないかと思う場面が多い。国内にも海外にも行ってみるのもいいし、軽い気分で何かを試したり飛び出していくことを怖がらないでほしい。
やり直しはいくらでもできると思うので、若い人たちにはもっと気楽にいろんなことにチャレンジしてほしいですね。
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