『今だからこそ映画館で』 「Fukushima50」カムバック上映

 
舞台あいさつをする渡辺謙さん(左)と佐藤浩市さん

 映画「Fukushima50(フクシマフィフティ)」のカムバック上映記念舞台あいさつが、都内の映画館で行われた。新型コロナウイルスの影響で、都内での舞台あいさつは約4カ月遅れとなった。映画は東京電力福島第1原発事故直後の現場で奮闘した本県の作業員らを中心に描いている。出演した佐藤浩市さん、渡辺謙さんは舞台や映画制作と新しい生活様式の難しさについても思いを語った。

 ―新型コロナウイルスの影響下で、改めてこの映画を届ける意義とは。
 佐藤 世界がこういう状況で人が何をできるのか。少しでも方向を間違えると取り返しがつかなくなる。映画で語りたかったこと、原発事故の状況も同じ。人災にしないために、一人一人が考えなければならない。

 渡辺 原発事故と新型コロナウイルスでは違う側面がある。原発事故で世の中が変革しなければ、気が付かなければならなかった。あっという間に針が戻され、新型コロナウイルスでどうやって生きていけばいいんだろうと考えさせられている。ただ舞台も映画も、熱とバイブレーションを取り上げられると成り立たないもの。新しい生活様式という言葉には何か引っかかるものがある。エンターテインメントの人間としては普通の生活を取り戻したいという思いがいっぱいだ。

 ―(東京での舞台あいさつが行われた)7月9日は吉田昌郎所長の命日。福島第1原発の最前線で指揮を執られた吉田さんを演じた渡辺さん、いま何を思う。
 渡辺 コロナ対策でもそうだが、大事なのは現場の声。現場の同僚の声を聞き、本店や政府とも闘ったのが吉田さん。気持ちを新たに、改めてこの日に映画を届けられる(のは感慨深い)。現場を大事にした吉田所長を映画を通して感じてもらえれば、吉田さんも喜んでくれるのではないか。

 ―現場で事故の収拾に当たり、最前線で闘った2人。作品でこだわった点は。
 佐藤 原発事故のことを自分たちはあまりに知らなすぎた。身近に起こったのに知らなかった。どんな事象でもある。コロナでも最前線で頑張っている医療従事者の人々が偏見の中で生活を送らなければならなかった。私たちが正確に見聞きすればそういうことは起こらなかった、避けられたのかもしれないと、いま感じている。現地雇用の作業員たちが感じたことだと思う。

 渡辺 見えない敵と向き合った恐怖。それに尽きる。原発事故もコロナも、常に最善の注意を払い、葛藤の中で人の命と向き合った。緊張感、恐怖はコロナ対策も同様だ。原発事故でも急を要する、相当な緊張感、ストレスをもって対応していたのだろう。

 ―いま映画館に行こうキャンペーンが行われている。映画を映画館で見る魅力とは。
 佐藤 実際に映画を見た後、暗がりから外に出てから感じるものがある。それは劇場で見なければ味わえない。それが映画の魅力というものだ。いま劇場に足を運ぶことに躊躇(ちゅうちょ)する人もいる。だけどマスクをすることや換気や消毒など映画館側も対策している。十分な注意を払っていれば、それほどためらわなくてもいいことなのではないか。

 渡辺 この3カ月間、こんなに仕事をしなかったことはない。ステイホームで毎日映画を見た。映画とは体験。暗がりでいい音で、大きなスクリーンでの体験。宅配便のピンポンもならない2時間。これが本来の体験だ。なかなか映画館に行かなくなった若い人にも、ぜひ映画館に来てほしい。