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 1人態勢の解消
【1】―2009.01.03
1人態勢の解消
坂下厚生総合病院の分娩室は現在、倉庫代わりだが「いつでも再開できるように」と設備は残してある=昨年12月18日
県立大野病院の妊婦死亡 

 2004(平成16)年12月、帝王切開手術中に女性=当時(29)=が死亡、執刀した産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕、起訴された。福島地裁は昨年8月、「医師に過失はなかった」と無罪を言い渡し、確定した。
第1部
医師と患者
 
― 分娩室 倉庫代わり 
 
 坂下厚生総合病院(会津坂下町)の2階の1室。昨年12月、その部屋は折り畳まれたベッドなどで雑然としていた。分娩室(ぶんべんしつ)を表すかのように保育器もある。同2月以降使用されていないが「再開できるよう、設備はそのままにしてある」と高久忠事務長(49)。
 2007(平成19)年夏、同病院産婦人科に当時1人で勤務していた山田純也医師(46)は、派遣元の福島医大から転勤を促された。「時代の流れか」。約8年間勤務し、病院にも地域にも愛着があった。離れたくなかったが、医師不足の中、同大が派遣先病院の医師1人態勢の解消と集約化を進めていたのは知っていた。昨年1月を最後に双葉厚生病院(双葉町)に移った。
 開院以来50年、「一人医長」で続けた出産の取り扱いが途絶えた。それまでの取扱数は07年度70件、06年度111件。県立南会津病院(南会津町)も昨年3月に出産の扱いをやめ、会津地方で出産ができる病院は会津若松、喜多方両市の4カ所のみとなった。会津地域では昨年12月、復活を求める署名活動が始まった。
 最寄りの病院でお産ができない現状。県内の公的病院に産科医を派遣している同大産科婦人科講座の佐藤章教授(64)は、双葉厚生病院の産科医2人態勢を維持、継続させるため同病院に移るよう山田医師を説得した。地域には「今後も続く産科医不足の現状を分かってほしい」と理解を求める。
 「1人では体力が持たない。(疲労などが原因で)医療事故が起きた際、責任が取れない」。佐藤教授は06年、県立大野病院(大熊町)の産婦人科医(41)が逮捕、起訴された出来事(昨年9月に無罪確定)に言及する。「そもそも、大野病院に彼を派遣したくなかった」。大野病院が当時、1人態勢だったからだ。その後に起きた逮捕、起訴。1人態勢解消の機運が高まり、無罪となった今も流れは変わらない。
 山田医師は、西会津町や三島町から雪の中をやってくる妊婦の姿を思い出す。今後は出産の際、会津若松市の病院まで行く必要がある。「坂下まで来るのも大変な人がいる。坂下に産科は必要」。いつの日か産科医不足が解消し、同病院に産科が復活するのを願う。
 


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