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 医療訴訟
【9】―2009.01.14
医療訴訟
仙台高裁で開かれた控訴審に出廷した幕田智広さんと美江さん=昨年12月25日、仙台市
医療事故調査委員会 

 医師や法律家、学識者でつくる委員会が、これまでの警察に代わって医療事故死などの届け出を受け、原因を調査する。悪質なケースなど必要な場合には警察に告発する。厚生労働省は同委員会の設置に関する法案を公表し意見を募っている。
第1部
医師と患者
 
― 現場の委縮が課題に  ―
 
 昨年12月25日、福島市の幕田智広さん(42)と妻美江さん(42)は複雑な表情で仙台高裁(仙台市)を出た。福島医大付属病院で医療過誤があったとして損害賠償を求めた訴訟の控訴審。この日、和解に向けた協議が初めて行われた。「判決が一番望ましいが、和解のメリットもある」と心は揺れる。ただ、長期化している訴訟に終わりが見えてきたことにはホッとしている。
 一審福島地裁判決によると、1995(平成7)年5月、同病院で自然分娩(ぶんべん)中、美江さんの子宮が破裂し、医師は帝王切開手術への移行を決定。別の医師の到着を待って手術が行われ、二女未風(みゅう)ちゃんは仮死状態で誕生。2000年3月、重度脳性まひで死亡した。
 幕田さん夫妻の提訴を受け、同地裁は昨年5月「分娩経過を注意深く監視し、緊急の帝王切開を行う準備をしておくべきだった」と約7344万円の支払いを同病院に命令。同病院が控訴し現在に至る。
 近年、医療過誤訴訟が増加し、医師不足と相まって臨床現場に大きな負担を強いている、との指摘がある。これに対し幕田さんは「求めているのは事故の再発防止。『医療崩壊』の議論と訴訟は切り離してほしい」と話す。一方、同病院のある医師は「こちらの勝訴はない」と病院の賠償責任を否定しないが、現場の医療を委縮させる内容の判決が一審で出たことに危機感を抱く。
 現場の医師を委縮させることが本意でないのは、医療側も被害者も同じ。訴訟に代わる医療事故調査委員会の設置を望む声は双方から上がる。ノンフィクション作家柳田邦男さん(72)は「医療事故被害者の体験は病院にとって掛け替えのない財産」と、双方に協力を呼び掛ける。昨年11月24日には、東京ビッグサイトで開かれたシンポジウムで講演した。
 柳田さんは、被害者の体験を医師の意識改革につなげるため、病院は被害者、遺族と意見交換の場を持つべきと訴える。医師個人への責任追及に向かいがちな遺族の感情に対しては「組織として責任を持つことが大事」と病院トップに覚悟を迫る。
 


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