【風吹く芽<上>】技術の継承 茅葺き屋根の未来守る

 
茅葺きの技術向上に励む阿部さん(左)と佐藤さん。職人のなり手不足が課題になっている=下郷町・旧江川小大内分校

 週末を中心に多くの観光客が訪れる下郷町の大内宿。江戸時代の町並みを残す中心部から歩いて数分の場所にある旧江川小大内分校で12月中旬、2人の男性が茅葺(かやぶ)き屋根の未来について語り合っていた。「このままだと新しい需要どころか、現状維持も難しい。今あるものを守っていけるのかどうかも分からない...」

 2人は大内宿で飲食店を営む佐藤高光さん(43)と土産物店を営む阿部公一さん(44)。ともに経営者としての顔のほか、茅葺き屋根の修繕などに携わる職人としての顔も持つ。未来を語る2人は浮かない表情を見せた。

 時代の変化などから、近年は茅葺き職人や材料の不足が課題になっている。日本茅葺き文化協会(茨城県)などによると、国内の茅葺き職人は20年間で3分の1に減り、現在は100人程度。県内でも専業の職人は数えるほどといわれている。

 「職人がいなくなると茅葺き屋根の維持が難しくなり、観光にも影響する。技術を残していかないといけない」(佐藤さん)。大内宿では危機感から職人に転じた元町職員の男性が中心となり、20年近く前に大内宿茅葺技術伝承会が発足。有志が仕事後に集まり、茅葺き屋根の勉強を始めた。

 その際に活用したのが、廃校となった同分校だ。町の許可を得て校舎内に屋根組を造り、縄の結び方などを学んできた。知識や技術を身に付けた佐藤さんらは本業の傍ら、依頼を受けた各地の修繕現場で汗を流す。「学んでいくうちに面白みが出てきた。今では楽しくやっていますよ」。佐藤さんの言葉に阿部さんもうなずく。会には現在、約15人の会員がいて、佐藤さんが会長を務めている。

 茅葺き屋根は地域にあるススキなどを材料に使うことが多い。そうすることで地域の景観や自然環境が維持される。「合理的な構造で(環境面などは)いいことの副産物」と阿部さんは感じている。大内宿では地域全体が協力して屋根の葺き替えを続けてきた。佐藤さんは「『結(ゆい)』という相互扶助の精神が大内宿にはある。自分たちの地域は自分たちで守る」と話す。

 会では若い世代に茅葺きの技術を教えたり、観光客向けに体験会を開いたりすることも考えている。「ご先祖さまから受け継いだ技術や景観を守っていかないといけない」と阿部さん。佐藤さんは「受け継いだ技術と、自分たちで進化させたものを合わせて伝えていきたい」と力を込める。結の精神が息づく大内宿で、文化継承への危機感と「伝統を守り育てていく」思いが交錯している。

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 日本の伝統文化で、県内各地にも点在している茅葺き屋根が、職人のなり手不足や材料の不足などを背景に継承の危機に立たされている。存続に向け、新たな風を吹かせようと県内で活動する人たちの姿を追った。

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 茅(かや) 建物の屋根を覆うススキやヨシなどの総称。茅葺き屋根は断熱性が高いため、夏は涼しく冬は暖かい。防火の観点から、新築は建築基準法で規制されている。「茅葺き」「茅採取」を含む「伝統建築工匠の技 木造建築物を受け継ぐための伝統技術」が2020年12月にユネスコ無形文化遺産に登録された。茅葺き屋根の民家が多く残る大内宿は国重要伝統的建造物群保存地区に指定されている。