【風吹く芽<中>】喪失の危機 需要減、茅場は森林に

 
茅屋根の修繕に備え、雪が降る前にススキを刈り取るプロジェクトの会のメンバー=福島市桜本

 福島市桜本の山中で11月中旬、男性4人が2メートル以上に伸びたススキを刈り取り、手で束を一つ一つ作っていた。「重くて大変」。そのうちの一人で福島市の建築士新関永(ひさし)さん(61)は笑う。

 新関さんは2年前、戊辰戦争とゆかりがあり、国の登録有形文化財に指定されている同市のぬる湯温泉宿泊棟の茅(かや)屋根を16年ぶりに葺(ふ)き替えるため、仲間と「ぬる湯温泉茅屋根維持保全プロジェクトの会」を結成。必要な茅を賄うため、この土地を確保した。葺き替えは10月に終えたが、今後の補修に備え、土地の維持管理を続けている。

 葺き替えでは、思わぬ苦戦を強いられた。必要な茅は2トントラック10台分だが、会で管理するススキでは全く足りず、下郷町や他県から調達。職人も県内のほか京都、新潟、石川の3府県からかき集めた。茅の輸送や人件費を含む総額は2000万円を超えたという。

 日本茅葺き文化協会(茨城県)によると、茅を採取する草地(茅場)は明治時代に国土の30%を占めたとされるが、近代化に伴い需要が激減。管理されなくなった茅場は森林へと様変わりし、現在では3%以下になった。国内で大量の茅を確保するのは難しい状況になっている。

 茅や職人の減少により、茅葺き屋根の維持費は上昇。「所有者だけでは賄い切れない。補助が手厚い国重要文化財などの一部を除き、なくなるのは時間の問題だ」と新関さんは危機感をあらわにする。会津若松市の旧岡崎家住宅は2019年、県重要文化財の指定が解かれたが、県によると、茅葺き屋根の維持が困難になったことが主な理由という。

 茅葺きを守る機運を醸成するべく、プロジェクトの会は10月、福島市内の茅場で「生き物観察会」を初開催した。茅場に生息する生き物の観察を通して、茅の重要性を認識してもらうのが狙いだ。

 茅場は草地が森林に変わる過程ともいえ、昆虫や野鳥、植物の宝庫とされる。屋根も珍しいハチなどのすみかとなり、地域の生態系を守ってきた。

 「来年も生き物観察会などの試みを続け、日本の原風景と茅葺き文化を後世に残すための道筋を示したい」と新関さん。生物多様性や里山の持つ意義を見直すきっかけをつくり、茅葺きに対する理解と保全の必要性を訴えていくつもりだ。

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 茅葺きの維持費 茅の取引価格は基本的に交渉で決まるが、茅場の減少により総じて上昇している。文化庁によると、茅屋根の葺き替え費用は「国重要文化財」指定の建築物の場合、国が50~85%を補助する。大内宿のような「伝統的建造物群保存地区」も補助は比較的手厚い。一方で「国登録有形文化財」指定は原則として補助対象にならず、多くの所有者は重い負担を抱えている。