【「ざくざく」「こづゆ」】汁物2種、共存地域も

 
冠婚葬祭で出される会津の「おもてなし郷土料理」こづゆ(中央の赤い器)。具材は地域、過程で違うが、写真は里芋、ニンジン、細竹、ワラビ、こんにゃく、ちくわ、ホタテ貝柱、豆麩。昔は海の幸が手に入りづらく、保存の利く干し貝柱がだしに使われた=猪苗代町・いわはし館

 季節は初冬、温かいものが恋しい。そこで県内の郷土料理の中でも知名度の高い汁物「ざくざく」と「こづゆ」を調べてみた。

だしに違い

ともに根菜類など多彩な食材を、しょうゆ味で仕立てた汁物で、特別なときのごちそう。ただ、だしが違う。「こづゆ」は高級な干し貝柱、「ざくざく」は煮干し、するめなど干し貝柱以外を使う。食べられている地域も違う。「ざくざく」は二本松市や安達郡などで親しまれ、「こづゆ」は会津の料理。これが近年の一般的な認識だろう。

 似ているが別物か、それとも土地で名前が違うだけなのか。

 そこで、読者からのお便り。生まれた時から喜多方市塩川町という須藤まち子さん(70)は「『ざくざく』の材料は里芋、ニンジン、大根、板こんにゃく、昆布。だしは煮干しで、しょうゆ味。全て一口大に切り、大みそかの夕膳に神棚にお供えします」。「こづゆ」は「里芋、ニンジン、干しシイタケ、干しキクラゲを細かく切り、糸こんにゃく、細竹、干し貝柱、豆麩(まめふ)を入れ、何杯もお代わりできるよう小さな器で食べます。お祝い膳、不祝儀膳、仏事で作りますが、仏事ではニンジンなど赤色は避けます」。

 ともに特別な料理だが、出てくる場が違い、だしも違う。一番興味深いのは、塩川は会津なのに、二本松で名高い「ざくざく」も当然のようにある点だ。

 もう一人、会津若松市の読者から。「旧北会津村出身の祖母は、『こづゆ』は年の瀬、『ざくざく』は特に大みそか食べると言っていた。『ざくざく』のだしはするめです」と、会津坂下町出身の、みーこさん(73)。「こづゆ」はフォーマル、「ざくざく」はカジュアルな料理として共存し、具は家々で違う。

 だが同じ会津でも別の地域では違うようだ。猪苗代町の女性は「干し貝柱以外でだしを取った汁物は『こづゆ』を家庭でアレンジしたもの」。西会津町の女性は「『こづゆ』は食べるが『ざくざく』は知らない」。塩川、坂下など会津若松の北の平野部と違い、「こづゆ」が優勢だ。

湖南は「じゅう」

 郡山市湖南町にも、冠婚葬祭で出す汁物があるが、名前は「じゅう」。「重」「汁」と書くらしい。湖南出身の料理研究家、三瓶ミヤ子さん(77)=郡山市=は「『こづゆ』と同じく小さな皿で客や家族に出します。具は、個人的には里芋、ニンジン、板こんにゃく、ギンナン、ワラビ、ショウガ、ちくわ、シイタケ、しみ豆腐など。特徴は地竹(小さなタケノコ)を中央に2本のせること。煮崩れする大根は入れません」。「こづゆ」に近いが、だしが興味深い。「缶詰の赤貝かするめ。会津藩領だった地域では赤貝、二本松藩領だった所ではするめです」

 また湖南では昆布だしで豆腐の入った「けんちん汁」を食べるが「これは熱々をおなかいっぱい食べる庶民のもの。『じゅう』は、見栄えの良い武家社会の料理。食べる意味が違う」と三瓶さん。なるほど、会津でも二本松でも、武家と庶民の文化が混じり合い、汁物が多様化したのかもしれない。(鈴木博幸)