【春彼岸の削り花】 寒冷地で生花の代わりに

 
削り花は、角材を薄く削って着色し、切り離した花びらを重ねて作る完成した色鮮やかな削り花が出荷を待つ=川俣町の多機能型事業所「めぐみ」

 彼岸の中日(春分の日)から3日後に当たるきょうは「彼岸明け」。週末などに墓参りをした人も多いのでは。実はこの時期、色鮮やかな造花を墓地に供える地域が、県内に限らず少なからずある。なぜ造花なのか?

 まずは読者から寄せられた情報を。「須賀川市の中心部などのお墓では、春のお彼岸のお花といったら、竹や木を削って作られたカラフルな削り花です」(須賀川市・ゆのみさん30代)、「郡山に住んでいた時、春彼岸が近くなると、どこのスーパーにも削り花が売られていました。初めて見た時は、カラフルな風車だなぁと思いました(笑)」(桑折町・ねんねこばんてんさん48歳)。

 このように県中や県南では、春彼岸の花といえば「削り花」と呼ばれる造花を指すことが多く、スーパーなどで購入できる。

 削り花を数多く生産している、川俣町の多機能型事業所「めぐみ」を訪ねた。管理者の遠藤庄一さんに削り花の起源を聞くと「昔は、雪が多い時期は生花がなかった。農閑期である冬場に、農家の人たちが造花を作って、春の彼岸にお供えしたのが始まりのようです」と話す。

 川俣町では以前、町の老人クラブで作っていたが、二十数年前から同事業所で作業を受け継ぎ、現在は年間約12万本の削り花を生産している。

 角材削って着色

 作り方は、長い角材を薄く削って経木状にして、染料に漬けて着色し、乾燥させる。「ここまでは俺の仕事なんだ」と遠藤さん。花びらの長さに1枚ずつ切り離し、茎に見立てた竹の棒に刺す。ヤマブキの枝で作った芯で花びらの中心を留めるが、「ヤマブキの枝は中がスポンジ状なので竹を刺しやすい。乾燥すると硬くなり、竹が固定される」と教えてくれた。

 毎年10月から花を組み立てる作業を始め、節分のころから出荷する。並行して次の年に出荷する分の準備も行い、作業は1年がかりだ。作業所内には、すでに来年用の花びらが山盛りになっていた。全て手作業で、職員と施設利用者が協力して作る。完成した削り花は、川俣町内をはじめ県中、県南のホームセンターやスーパー、商店などに卸している。

 県北では削り花を供える風習はあまり見掛けないが、"産地"の川俣町では広く行われている。同町の読者からも「川俣町では造花の彼岸花をお墓に上げます。どこでもこの風習があるのかと思っていたら、福島市内にはないようです」(斎藤恵二さん75歳)と寄せられた。

 手作りの温かさ

 春彼岸に造花を飾る風習は、全国の寒冷地に広く伝わり、花の形は地域によって異なる。例えば会津美里町では、円形の半紙に切り込みを入れて花びらを作り、重ね合わせて菊のような形に仕上げる。これは家の仏壇に飾るもので、数年たったものをお墓に供えるのだという。

 形は違っても、どの花も手作りの素朴さと温かさがある。そして共通するのは、生花が手に入りにくい時期に、それに代わるきれいなものを故人に見せたいという思いから生まれたということだ。

 新鮮な花がいつでも買えるようになって久しいが、この"工芸品"を手向ける文化はいつまでも続いてほしい。(佐藤香)