【 いわき・小名浜の工場地帯 】 歴史刻む港の不夜城 写真家ら魅了
赤茶け、さびついた壁や建物に張り巡らされたパイプ、年季の入った煙突からもうもうと吐き出される煙―。いわき市小名浜の海に面した工場地帯の昼間の風景だ。沿岸部に広がる工場群は、日没とともに、その表情を一変させる。
夜のとばりが降りるころ、24時間体制で動く工場の照明が徐々に浮かび始める。日中は多くの大型トラックや工事車両などが行き交う港湾道路も、真夜中になればしんと静まり、煙を吐き続ける工場の存在感を際立たせる。「工場夜景」は、写真愛好家らにより、近年ブームとなっている。小名浜でもその夜景の美しさに魅了された写真家が日々ファインダーをのぞいている。
「なくなっていく風景、変わりゆく風景、変わらない風景を残していきたい」。小名浜の工場地帯の夜の風景を約3年前から写真に収め続けているフリーカメラマンの中村幸稚(たかのり)さん(39)はファインダー越しに見る工場は幻想的な姿を見せてくれると語る。昨今の工場地帯夜景ブームを受け、軽い気持ちで小名浜の夜景を巡るイベントに参加し、その迫力と美しさにとりこになったという。
多様な人たちが集まる銀行や、若者が集うアパレルショップで写真展を開催し、工場地帯の写真も展示する。地元の知られざる魅力に触れてもらい、地元を誇りに思ってほしいと中村さんは言う。
中村さんにお気に入りのスポットを教えてもらった。サミット小名浜エスパワーの工場を、藤原川に架かる橋から見たアングル。川に映る照明とのコントラストやライトに照らされながら天に昇る煙。不夜城を思わせる幻想的な光景だ。
◆赤さびも味に
小名浜の工場地帯は「日本水素工業」(現日本化成)が1939(昭和14)年に操業を開始したのが出発点。以来、海水浴場だった小名浜沿岸部で埋め立て工事が進み、現在の姿が形づくられたという。
「当時は"会社勤め"と言えば、日本水素の社員のことを指していた」。小名浜の歴史を追い、現在に残す活動に取り組む小野一雄さん(74)は「専門外だが」と苦笑いしながら、記憶をたどる。子どものころに始まった埋め立て工事、次第に規模を増していった工場の姿は小名浜で生まれ育った自身の成長と重なっているような感覚があるという。
日中の工場群は一見無機質な風景だが、工場内では確かに人の営みが続き、小名浜の町の発展に寄与してきた歴史がある。目を引く夜の風景も魅力だが、工場の一つ一つのさびや傷も、歴史の積み重ねに見えてくる。
≫≫≫ ちょっと寄り道 ≪≪≪
【高台の公園に展望台や貝塚】小名浜臨海工業団地大畑緑地は、小名浜の工業団地の一角にある、高台の公園。敷地内には港を一望できる展望台があり、小名浜の町並みが眼下に広がり、港に出入港する貨物船や漁船の往来する様子が一望できる。大畑貝塚もあり、カツオ漁が縄文時代から盛んだったことなども分かっているという。
〔写真〕高台の展望台からの眺望。小名浜港を一望できる
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