【 本宮・駅前通り(下) 】 水と闘いともに生き 和舟乗り住民救助
「もっと速くこげ!」と野太い声が響く。8月、本宮市夏祭りで地域住民の盛り上がりがピークに達するのは阿武隈川を舞台にした恒例の消防団対抗「舟こぎ競争」だ。水害が多かった本宮で有事の際の救出には団員が和舟に乗り込み向かっていたことが由来とされる。
水の都、みずいろのまち―。旧本宮町時代から本宮市のキャッチフレーズに多く使用されるのは「水」。市の中央を阿武隈川、付近には安達太良川が流れる。水は生活を豊かにする一方、時に水害として住民に牙をむいた。それでも川と住民の距離は驚くほどに近い。宿場町だった名残もあるという。JR本宮駅からほど近い旧奥州街道沿いには阿武隈川が流れ、民家が川に寄り添うように並んでいる。
本宮の消防団員はたびたび水害と闘ってきた。昭和10年代の大洪水や、東北地方に大きな被害をもたらした1986(昭和61)年の8・5水害など市を襲った水害などとも対峙(たいじ)した。
8・5水害では駅前通りを含む本宮駅周辺でも大きな浸水被害が発生。九縄通りに店を構える大天狗酒造社長の伊藤滋敏さん(62)は、実際に和舟に乗り込んで自力で避難できない住民の救助に向かった元団員の一人だ。伊藤さんの自宅脇の蔵には幼少期、和舟が置かれていた。「こんな駅前で本当に舟を使うのか」。30歳を超え、初めてその意味が分かった。
◆夫婦のように
それでも人々は川沿いに住み続ける。農業はもちろん、日本酒を造るにも水は不可欠だ。「地元の蔵元として地元産を使うのがこだわり」と伊藤さん。
8・5水害後、一つの施設が安達太良川沿いに完成した。水害に負けず、水にもっと親しんでもらおうという逆転の発想だった。住民の公募で決まった名称は「みずいろ公園」。園内では滝や噴水など水遊びができ、今では子どもたちが水浴びする姿が代名詞の人気スポットだ。
阿武隈川沿いでは堤防整備が着々と進む。2020年度末には約25年にわたる左岸、右岸整備がともに完了する。過去の水害の教訓を生かした新たな堤防が人々の暮らしをより良くすることが期待される。
川沿いに住む女性にも話を聞いてみた。川は好きですか。「生まれてからずっと一緒。良い所もあれば悪い所もある。受け入れなきゃね。夫婦みたいなもんよ」。妙に納得させられた。
≫≫≫ ちょっと寄り道 ≪≪≪
【昔ながらの団子や大福】駅前通りに店を構える「若松屋」の一押し商品は、昔ながらの団子や大福だ。団子はずんだやしょうゆなど4種類で1本80円から。防腐剤は使わないのがこだわり。2008(平成20)年にはもとみや食の店として認定された。店主の増子金治さん(74)は「幅広い世代の人に食べてほしい」と話す。
〔写真〕昔ながらの団子や大福が人気を集める若松屋
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