【まち中華物語】ジャスミン・会津若松市 昔も今も温かい場所

 
変わらぬこだわりを料理で示し続ける一ノ瀬さん(矢内靖史撮影)

 中華料理店「ジャスミン」が開店したのは1983(昭和58)年3月。会津若松市のシンボル鶴ケ城の築城600年を記念した式典が開かれる前年のことだ。店のある同市桧町は当時、田んぼの中に住宅が点在するのどかな地域だったが、開発に伴い田んぼは大型量販店などに姿を変えていった。店から道路一本隔てた千石通りは交通の大動脈となり、県内有数の観光地らしく県外ナンバーの車が多く行き交う。ただ、まちの表情は変化しても、変わらないものもあるとマスターの一ノ瀬幸孝さん(69)は言う。「お客さんの温かさがそれだよね」

 留学生も常連に

 会津若松市出身の一ノ瀬さんは高校を卒業後、東京都内の中華料理店に就職。10年ほど働き、独立を機に地元に戻って30歳で店を始めた。開発が進んだのは90年代から2000年代にかけて。会津学鳳高が開校し、大型量販店やスーパーなどさまざまな店が千石通りに立ち並ぶようになった。にぎやかさが増した一方で、買い出しの際に楽しみにしていた大音量の"カエルの合唱"は消えていった。

 常連客との間に思い出深い出来事がある。開店から10年ほど過ぎたころだ。同市に会津大が開学すると、学生や外国人留学生も店を訪れるようになり、なじみが増えた。常連客の中に中国から来た一人の男子留学生がいて、卒業する際、来日した両親らと一緒に店に食事に訪れたという。息子から日本での生活を聞いていたのであろう、両親は何度も礼を言い、封筒を置いていった。「中にお金が入っていてね、驚いたよ」。遠い異国の地で学ぶ息子の面倒を見てくれる人がいる、それを知った父親の気持ちと受け取った。

 まちの姿は変わっても常連客の胃袋を満たし続ける料理は変わらない。店内を飾る主なメニューは開店当初から一貫している。人気のラーメンセットは「多すぎると仕込みが大変だから」という言葉とは裏腹に、ラーメンとセットにできる料理が16種類に上る。信念は「医食同源」。「ラーメンだけでは栄養が偏るから」と、なるべくいろいろなものを食べてもらえるように定番のチャーハンやマーボー豆腐のほか、チンジャオロース、カレーなどを一緒に食べられるようにしている。

 変わらないよさ

 変わらないものがもう一つ。それはラーメンの値段。単品は385円、ギョーザとのセットでも550円。開店から5年ほどたったころ、「ワンコイン」で食べてもらおうと設定したのが始まり。今では安すぎてお客さんから「値段上げたら」と心配されるほどだ。値上げしないことに「理由はない」と話すが、少し考え「強いて言うなら意地だね」と続けた。

 常連客のおかげで新型コロナウイルス禍も乗り切っている。「うちは常連が多くてね。何とか大丈夫だよ」。週に1度は訪れるという同市の坂内一也さん(60)は熱烈なファンの一人。「値段が安くてボリュームがある。そしておいしい。かれこれ4年ぐらい通っているかな。お店を知った時に行ってみたいと思って初めて食べたら、はまりました」

 「栄養バランスを基本に、無理のない価格で提供する」。開店当初から一貫する、変わらないよさが何よりも店の自慢だ。(阿部裕樹)

お店データ

ジャスミンの地図

【住所】会津若松市桧町5の47

【電話】0242・27・9275

【営業時間】午前11時~午後3時と午後5時~同9時。水曜日は夜の部休み

【定休日】木曜日

【主なメニュー】▽セットメニュー=880円(唐揚げ、4種フライ、ジャスミン、チンジャオロース、カツ丼など)
▽セットメニュー=770円(カレー、マーボー豆腐、チャーハン、シューマイ、かに玉など)
▽ジャスミンメン=770円
▽五目ラーメン=770円
▽チャーシューメン=770円
▽タンメン=660円
▽もやしラーメン=660円
▽スーチンコウバ(おこげの五目あんかけ)=660円
▽ラーメン=385円

【店主メモ】疲れた時には会津美里町の国指定史跡「向羽黒山城跡」を散策。「気分転換のパワースポットですね」

チンジャオロースのラーメンセットチンジャオロースのラーメンセット。栄養のバランスも考えられている

          ◇

 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。