【まち中華物語】鳳翔・いわき市 大きく育って恩返し

 
アルバイトを経て料理長となった近藤さんが人気の味を提供している(吉田義広撮影)

 飲食店や映画館などが立ち並ぶ繁華街の一角に店はある。「中国料理 鳳翔(ほうしょう)」は、いわき市平の中心部で50年にわたり、常連客の胃袋を満たしてきた。先代の味は今、まな弟子に引き継がれ、新たなファンも引き付けている。

 留学時にバイト

 創業は1972(昭和47)年。JRいわき駅南側で街の移り変わりとともに歩んできた。先代社長の故草野達雄さんは7年前に他界し、妻のサナエさん(67)が社長として店を切り盛りする。学生時代のアルバイトを経て料理長となった近藤克城さん(50)が味を守る。

 「ここから近い飲食店の一角を間借りして夫の母が店を始めたと聞いている。それから50年がたった」とサナエさん。駅周辺の風景は大きく変化したが、看板メニューは変わらない。

 五目焼きそばや、マーボー豆腐、五目チャーハン、エビのチリソース煮込み。先代の頃から続く人気メニューだ。調理場で真剣な表情で鍋を振る近藤さんの出身地は中国の福建省。中国から日本に帰化した料理長という一面を持つ。

 看板メニューに加え、近藤さんが新たに生み出したメニューも人気を集める。人気メニュー2品を掛け合わせたマーボーチャーハンはその一つ。また、出身地の福建省でよく食べられているという湯葉やマコモダケを使用したスープ、和食シェフの経験を生かしたタケノコの黄金揚げなどメニューは多彩だ。さまざまなジャンルの調理を経験してきた近藤さんならではの料理も魅力の一つだ。

 「いわき市の中華料理屋といったら、この店だった」。近藤さんと店との出合いは約25年前までさかのぼる。店から近い東日本国際大に留学し、アルバイトを始めたのがきっかけだった。会社員らでにぎわうランチから始まり、深夜帯は飲んだ後の「締めの一皿」の提供まで。アルバイトとして働き、当時から店を訪れる常連客に親しみを感じてきた。

 いまだに店を訪れては先代の話をする人もいる。先代の人柄によるものだ。「夫は面倒見がいい人で家族や仲間に優しく、中華料理店の仲間を集め、経営の悩みなど聞いていたようだ」。サナエさんはほほ笑みながら当時を思い出す。

 先代の思い継ぐ

 その人柄にひかれたうちの一人が近藤さんだ。アルバイト、そして従業員として約10年間働いた後、先代と一緒に調理することで料理の魅力にはまり、本格的に料理人の道を志した。後ろ髪を引かれる思いだったが「さまざまな料理を学びたい」と退職。中国のホテルや台湾の中華料理店などで働き、東京の和食料理店では料理長を務めたこともあった。

 再びいわき市に戻るきっかけは約10年前、先代が病に倒れたことだった。「店を手伝ってほしい」。調理経験がないサナエさんと店を続けてほしいという先代からの願いを受け、心が突き動かされた。学生時代に温かく迎えてもらい、「料理人としても心構えを厳しくしつけてもらった」。そんな感謝の思いから再び鳳翔の厨房(ちゅうぼう)に立つことを決意した。

 1年半前、姉妹店となる「台湾点心総本舗 軒晟(けんじょう)」がいわき市平作町にオープンした。台湾料理や福建省の料理を味わうことができる店だ。「(先代から)『誰よりもおいしい料理を作る』という気持ちを教えてもらった。これからも勉強を続ける。お客さんにおいしいものを楽しんでもらいたいからね」。近藤さんはサナエさんとともに先代の遺志を引き継いでいくつもりだ。(小磯佑輔)

お店データ

鳳翔の地図

【住所】いわき市平白銀町6の9

【電話】0246・23・0251

【営業時間】午前11時~翌午前2時(金、土曜日は翌午前3時、日曜日は翌午前1時)

【定休日】年中無休

【主なメニュー】
▽五目焼きそば=900円
▽五目チャーハン=800円
▽マーボー豆腐=1100円
▽マーボーチャーハン=900円
▽小エビ入り高菜と豆腐のスープ=800円
▽スペアリブとゆばのスープ=1000円
◇一品料理
▽酢豚=1500円
▽油淋鶏=1600円
▽大エビのチリソース煮込み=2200円
▽フカヒレの姿煮=4800円

【店主メモ】エビチリなどに使うエビは殻付きを仕入れ、手作業で殻をむいている。この一手間で、ぷりぷり食感をより強く楽しめる。

マーボーチャーハン人気メニューのマーボーチャーハン

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。