【まち中華物語】建安・南相馬市 懐かしいけど新しい

 
龍のマークが目印の店で人気の味を提供している店主の引地淳一さん(左)と妻陽子さん(吉田義広撮影)

 国道6号を南相馬市から相馬市方面に車を走らせる。一直線の道を進み、JR常磐線の鹿島駅に近づくと、龍のマークが掲げられた「建安(けんあん)」が見えてくる。

 待つ人いるから

 店主の引地淳一さん(63)と妻の陽子さん(62)ら家族4人で切り盛りする人気店だ。淳一さんが県内外で料理の修業を重ねた後、父正さんが所有していた国道6号沿いの土地に店を構え、33歳の時に店をオープンした。

 今年で開店から30年を迎えたが、3月16日には本県沖を震源とする地震で被害を受けた。店内の損壊状況は激しく、断水が長引いたこともあり、店は一時休業を余儀なくされた。改修業者が作業に追われ、店内の完全な修繕には時間がかかるというが、4月5日には再開にこぎ着けた。

 「『いつから(店を)やるの?』と連絡をくれた人もいた。待ってくれているお客さんがいるから」と陽子さん。度重なる災害が発生する中でも、再開を待ち望む常連客らの温かい励ましの声が後押しとなった。店内には、陽子さんの元気な声とともに、サラリーマンや家族連れらでにぎわう光景が戻っている。

 常連客らを満たすメニューは多彩だ。「上海ラーメン」はその一つ。みそをベースにしたピリ辛スープのラーメンで、ピリ辛と言いながらも卵でとじることで味はまろやか。スープに浮かぶワタリガニの爪や身をしゃぶりながら、うまみと海鮮の風味を楽しむことができる一品だ。

 厨房(ちゅうぼう)に立つ淳一さんのモットーは「温故知新」。開店当初からメニューや味付けを時代に合わせて変えているが、修業時代の経験を今でも大事にしている。

 修業先の一つは仙台市にあった有名中華料理店「中国酒家」。調理師学校を卒業後、知人から紹介され、約6年にわたり腕を磨いた。「修業は厳しかったが、中華料理界では有名な人が料理長で、面倒を見てくれた」。建安と名付けてくれたのも当時の料理長だという。

 天龍さんも来店

 陽子さんの明るいキャラクターにひかれ、地元だけでなく、仙台市から常連になって通ってくれる客も多い。新型コロナウイルスの感染拡大前は、誕生日などで宴会を開く客も多かったことから、誕生日を覚えている客もいる。

 過去に店でアルバイトとして働いていた高校生やオープン当初から来ていた子どもが結婚して自分の子どもを連れて来店する姿もある。「『おばちゃん、俺のこと覚えてる?』なんて言われて驚いたこともあった。田舎のいいところだよね」と陽子さんは目を細める。

 過去に来店した客の中でも印象的な人が、元プロレスラーの天龍源一郎さんだ。淳一さんによると、天龍さんのガウン製作に携わっている縫製会社が近くにあり、その会社の社長が天龍さんを連れて何度か店に足を運んでくれたという。

 天龍さんが羽織っていたガウンには龍の柄が入っており、店にも自身と同じように龍のマークが掲げられていたことから店を気に入ってくれたという。

 多くのファンを引き付ける建安。「これからも工夫を凝らしながらも営業していきたいね」と淳一さん。家族で力を合わせて人気の味を守っていくつもりだ。(斎藤駿)

お店データ

建安の地図

【住所】南相馬市鹿島区鹿島字北田100の1

【電話】0244・46・3055

【営業時間】午前11時~午後2時(火~日曜日)、午後5時半~同8時(金~日曜日)

【定休日】月曜日

【主なメニュー】
▽上海ラーメン=990円
▽フカヒレラーメン=1580円
▽麻婆(マーボー)ラーメン=990円
▽黒胡麻(ごま)担々麺=990円
▽海鮮ラーメン=990円
▽海鮮焼きそば、または揚げ焼きそば=990円
▽ジャージャー麺=880円
▽チャーシューチャーハン=870円
▽カニあんかけチャーハン=1120円
▽小籠包(ショウロンポウ)(4個)=650円

 【店主メモ】ガス台は高火力の特注品だ。中華鍋も店内に30枚以上用意。営業時間以外は仕込みに時間をかけ、お客さんに少しでも早く料理を提供できるようにしている。「スピードだけは負けないよ」と笑う。

上海ラーメン人気メニューの「上海ラーメン」

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。