【まち中華物語】桜華楼・国見町 3人が咲かせる笑顔

 
厨房では店主の玉手真司さん(右)と美和さんが連携しながら調理をこなす(吉田義広撮影)

 好みに合わせて

 「チリンチリン」。ドアの鈴が鳴り、昼時には地元住民や会社員、週末は家族連れらが次々と店に吸い込まれる。桜華楼は水田地帯にぽつんと一軒だけ立つ人気店だ。

 店を目当てに隣接する伊達市をはじめ、福島市や宮城県丸森町からも客がやって来る。"国見の中華屋さん"として親しまれ、40年以上にわたりお客を温かく迎え続けている。

 どこか懐かしい味わいで具だくさんの「五目焼きそば」や「マーボー丼」「エビチリ定食」、店の名物「冬虫夏草ラーメン」など。多彩なメニューの店を切り盛りするのは"マスター"こと玉手真司さん(73)と妻の富子さん(72)、マスターの片腕でもある長男の妻美和さん(45)だ。

 真司さんは東京の帝国ホテルなどで働き、1975(昭和50)年に郡山市桑野で「中国料理 桜華」を創業した。その後、「地元の食文化を向上させたい」との思いから、81年に実家である現在の場所に移った。

 店名は「毎年咲く桜の花のように、料理で人々を楽しませたい」「木が年輪を重ねて大きくなるように店を繁盛させたい」という思いから名付けた。

 店を切り盛りする3人の連携はばっちりだ。エビチリを注文する人、パイコー麺を食べる人、辛いのが少し苦手な人―。常連客の顔をしっかり覚えており、「何を食べるのか、一人一人の好みを覚えているからこそ、メニューを削ることができない」と笑う。

 つながる人の縁

 見慣れた店内の風景には、3年ほど前までもう一人いた。長男の一志さんだ。一志さんは真司さんの背中を追いかけて料理人となり、美和さんと結婚後、親子"四人五脚"で店を盛り上げていた。

 しかし、4年ほど前に末期がんが発覚。治療を続けながらぎりぎりまで厨房(ちゅうぼう)に立ったが、2019年6月に45歳の若さで亡くなった。「誰からも愛される人柄で、家族を大事にしてくれて働き者だった」と真司さんは在りし日の姿を思い出す。

 美和さんにとっても悲しみはあまりにも大きかったが、一志さんが厨房に立ち続けた遺志を受け継ぐように、ホール業務中心からマスターの片腕として調理も担当するようになった。国見町内で一志さんと夫婦で力を合わせ、とんかつ店を営んでいた時に調理師免許を取得していたことが生きた。

 「多くの人に支えてもらって夫婦でお店をやったり、楽しかった」。美和さんは一志さんとの日々を思い出しながら店に立つ日々を送る。今では、マスターを補助する仕事にも慣れ、一つ一つの料理に常連客の顔が思い浮かぶほどだ。「タンメンを食べる人だ!」。お客が入店した瞬間からマスターとあうんの呼吸で下ごしらえを始め、いつもと違うオーダーが入ると「今日は違ったか~」と笑い合うほどの余裕も出てきた。

 「人との関係で全てがつながってきた」。そう語る真司さんの信条は「店はお客さまのためにある。社員と共に栄える」。丁寧に保管されている分厚い店の日誌や、お客の名刺がびっしり貼ってあるノートがその心意気を表している。

 「アルバイトを卒業した子たちが、成長して時々顔を見せてくれるのがうれしい。長年続けてきたからこそ"家族"が増えていくね」。真司さんは穏やかな笑顔を浮かべた。(高橋由佳)

お店データ

桜華楼の地図

【住所】国見町西大枝字堤前25

【電話】024・577・0305

【営業時間】
午前11時~午後2時
午後5時~同8時(土、日曜日)

【定休日】火曜日、第2、4水曜日

【主なメニュー】
▽五目焼きそば=850円
▽麻婆(マーボー)焼きそば=890円
▽肉入り焼きそば=890円
▽ラーメン=650円
▽冬虫夏草ラーメン=1000円
▽広東麺=850円
▽パイコー麺=1000円
▽チャーハン=780円
▽マーボー丼=890円
▽酢豚定食=1050円
▽エビチリ定食=1200円

【店主メモ】真司さんのリフレッシュ方法は、休日に妻富子さんと各地の温泉を巡ること。美和さんは店のSNS(交流サイト)を担当し、店の情報などを発信している。

人気メニューのエビチリ定食人気メニューのエビチリ定食

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。