【まち中華物語】中国料理香港苑・二本松市 全方位に愛を込めて

 
厨房で鍋を振る店主の渡辺平二さん(右)、祐也さんの2人。手作りにこだわり、変わらぬ味を提供し続けている

 「担々麺ください」

 料理が運ばれてくると、麺の上にあるはずの肉みそがない。その代わりに大量のコーン。初めて食べる客はたいてい目を丸くする。でも二本松の人は逆。食べ慣れた担々麺と違うので、他の店に行って驚くそうだ。

 新担々麺を確立

 「肉みそなし」になったのは創業後間もなく。配達する際の振動で、肉みそがスープに溶け、出前先で苦情を受けた。「それなら、肉みそをやめちゃえ」と考えたのが今の形。練りごまのたれもすりごまに変え、人気の札幌ラーメンにならいコーンを入れた。味わいを残しつつアレンジした工夫の品は市民に愛され、二本松の担々麺に定着した。

 「二本松の人にとって、うちが中華料理の基準なのでは」。店主の渡辺平二さん(72)と厨房(ちゅうぼう)に立つ長男の祐也さん(41)は推測する。それは、平二さんと母民子さん(70)の2人で始めた店が多くの客に支持され、43年間守り続けてこられたとの自負があるからだ。

 創業は1979(昭和54)年10月。東京の中華料理店で知り合った平二さんと民子さんが結婚を機に、民子さんの出身地二本松で店を構え、2人が出会った思い出の店と同じ「香港苑」と名付けた。その頃、市内には中華料理店は1軒もなかった。「こんなにおいしい中華料理を広めたい」という思いだけで店を始めたという。

 最初は、市街地から離れた住宅団地入り口のテナントを借りた。物珍しさで来てくれた客に、民子さんが料理を一つ一つ説明し、平二さんが鍋を振るった。

 平二さんは中学を卒業してから14年間、上野や銀座の一流料理店などを渡り歩き、北京料理を中心に腕を磨いた。修業先でおいしいと思った調理法と味を自分の店で出した。当時、酸味のある担々麺を食べた人に「腐っている」と言われたこともある。それでも自分の舌を信じて調理を続けると、常連も増え、口コミで評判が広がっていった。元気に接客する民子さんの明るさも後押しとなった。

 繁華街の貸店舗を経て89年、自宅を兼ねて自前の店舗を新築した。それから丸34年。周辺は開発が進み、田んぼが住宅街となった。常連は親から子、子から孫に引き継がれ、3世代で食べに来る人も多くなった。

 甜麺醤も手作り

 地元の人の心をつかんだのは手作りにこだわり、変わらぬ味で料理を提供してきたこと。代表格は甜麺醤(テンメンジャン)。甘みのあるなめみそ「京桜味噌(みそ)」をベースに、しょうゆなどを加えて作る。それで作る一番人気の回鍋肉(ホイコーロー)は、ちょうど良い甘みが癖になる。麻婆(マーボー)豆腐も辛さが控えめで大人から子どもまで食べられる。

 そんな一品料理や麺、チャーハン、中華丼など50品をメニューにそろえる。「中国料理を知ってほしい」と約20品を日替わりで提供するランチ定食も用意。餃子(ギョーザ)はニンニクを使わず、においが気になる人への心遣いも忘れていない。

 四川料理を学んだ祐也さんは「何を食べても失敗はしない店」をコンセプトに掲げる。だからグルメ番組でよく言われるターゲットを設定しない。「街の中華料理屋なので、家族でも高齢夫婦でも土木作業員でも誰でも来られる店がいい」。この12年間、父と共に厨房を切り盛りし、店の味を引き継いできた。父の背中から「苦しい時にみんな、家族で来てくれて助けられた」とお客に感謝する気持ちも、しっかりと受け継がれている。(高橋裕三)

お店データ

中国料理香港苑の地図

【住所】二本松市若宮2の159の11

【電話】0243・23・3640

【営業時間】
午前11時~午後2時
午後5時~同9時

【定休日】火曜日

【主なメニュー】
▽小エビのチリソース=1400円
▽イカのオイスター炒め=1300円
▽麻婆豆腐=1000円
▽回鍋肉=1200円
▽青椒肉絲(チンジャオロース)=1200円
▽五目やきそば=880円
▽エビそば(塩味あんかけ)=800円
▽担々麺=800円
▽冷やし中華(夏季のみ)=900円
▽五目中華丼=880円
▽エビチャーハン=800円
▽ランチ定食=850円

 【店主メモ】平二さんは東京・銀座の近鉄大飯店で働いていた1978年、来日した中国の鄧小平副首相(当時)の宿泊先で出された前菜を調理した。当時、同店チーフは四川料理の現代の名工、橋本暁一さん。祐也さんも橋本さんから中華料理を教わった。

担々麺肉みその代わりに、コーンがたっぷりのった担々麺。初めて食べる人は驚くが、地元の人にとってはこの形が定番だ

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。