【まち中華物語】中国料理大嘉・いわき市 自由な発想、皿に凝縮

 
店主の芳賀一雅さんと妻万利子さんが店を切り盛りしている(石井裕貴撮影)

 「店が目立たない場所にあるから、常連さんに通ってもらって成り立っているよ」。閑静な住宅街の一角にある店に派手な看板はなく、店先に掲げられたのぼり旗が営業中だと控えめにアピールしている。常連客が通う知る人ぞ知る店は、店主の人柄がにじむ、まち中華だ。

 創業は1992(平成4)年。店主の芳賀一雅さん(56)と妻万利子さん(56)があうんの呼吸で店を回す。約30年にわたり、サラリーマンや家族連れに料理を提供してきた。「安くておいしいを第一に考えているから、妻からは『値段を間違っているんじゃないの』と言われる」。値上げしたのは、材料費などの高騰に伴う1度だけ。2人での経営だからこそ、ぎりぎりの価格で提供できていると一雅さんは笑う。

 本場の味に衝撃

 一雅さんが料理人になるため修業に出たのは17歳の時。茨城県北茨城市の中華料理店で働き、親方の味を「盗む」ため、調理後の鍋から味を確かめるなどして腕を磨いた。

 北茨城市に初めて店を持った後、親戚がいわき市泉町で経営していた食堂をやめると聞き、25歳ごろにいわき市に戻り、親戚の店を改装し、オープンしたのが今の店だ。

 開店当初は近くに中華料理店が少なかった。水槽に上海ガニを入れていると、「近くの川にいるカニですか」などと珍しがられ、中華料理への理解を深める大切さを実感した。

 転機となったのが県内の日中友好団体への入会だ。一雅さんは団体の縁で33歳のころに本場の味に触れ、調味料の質の違いなどを体感。「初めてのことばかりで衝撃を受けた」。経験を自身の料理に反映できるよう、さらに工夫を重ねるきっかけとなった。

 ひらめき大切に

 その結果、力を入れるようになった一つが創作料理だ。「お客さんに何度来ても楽しんでもらえるよう、インスピレーションを大切にしている」。サバを知人から大量にもらった時には、中国の調味料トウチを使った「揚げさばとサラダのトウチ和(あ)え」を考え、提供を始めた。

 ランチから通常メニューに取り入れた料理もある。ランチで創作料理の「鶏の唐揚げカレー煮込み」を提供していた際には、「もっとさっぱりと食べられるカレーがあってもいいかな」との思いから、細切りした野菜を入れた「中華風カレーライス」を思いつき、評判の一品となった。

 現在の手持ちのメニューは50種類以上だ。「好きに楽しくやらせてもらえているから、ここまで店を続けられた」。一雅さんは修業先の親方や客にそう感謝する。その味に引かれる常連客も多い。市内の工場に勤め、転勤して数年後に再び戻ってきた際に顔を出してくれた人もいる。「久しぶりだね」。この言葉にうれしさがこみ上げるという。

 長男一樹さん(33)は宇都宮市のホテルで働き、中華料理を学んでいる。「いつかは一緒に調理場に立ちたいな」。親子のアイデアが合わさった新たな料理が今後生まれるかもしれない。(矢島琢也)

お店データ

中国料理大嘉の地図

【住所】いわき市泉町2の11の10

【電話】なし

【営業時間】
午前11時30分~午後2時
午後5時~同8時
※スープがなくなり次第終了

【定休日】火曜日(臨時休業あり)

【主なメニュー】
▽クラゲの冷菜=1260円
▽芝エビ唐辛子ソース煮(エビチリ)=1100円
▽豚の細切りピーマン炒め=1000円
▽大嘉タンメン=670円
▽スーラータンメン=760円
▽大嘉特製広東麺=760円
▽チャーハン=650円
▽中華風カレーライス=750円
▽マーボー豆腐セット=740円
▽鶏肉角切りみそ炒めセット=950円

【店主メモ】息抜きはバイクに乗ること。近くを走るだけでも気分がすっきりするという。バイク仲間から遠出した話を聞いて、その土地の風景を思い浮かべることも気分転換にしている。

中華風カレーライス店主のこだわりが詰まった「中華風カレーライス」

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。