白いのれんに書かれた屋号と、看板メニュー「湯麺（タンメン）」の文字が風に揺れる。前身の店から数えて４６年続く店には、「須賀川元祖」の流れをくむタンメンを求め、市内外から根強いファンが訪れる。

　常連客から学ぶ

　代名詞のタンメンは、鶏や豚の骨からだしを取ったこくのあるスープにキャベツやニラ、もやしなどの野菜がふんだんに盛り付けられた王道の逸品だ。調理場に立つ曽根栄子さん（７９）は「須賀川に初めてタンメンを持ってきた、亡き紀久治（きくはる）兄さんの味を守ってきた」と胸を張り、麺も当時と同じ製法の太麺を使い続けている。

　紀久治さんは、栄子さんの亡き夫の兄。東京で料理を修業した後、昭和３０年代に須賀川市加治町で中華料理店「宝来」をオープンさせ、大繁盛した。当時、家族で店を手伝っていた栄子さんは「お客さんの目当てはタンメン。店はいつも人でいっぱいで、昼は出前、夜は宴会と大忙しだった」と思い出す。

　そんな毎日を送っていた約４７年前、紀久治さんが４２歳の若さで亡くなった。真面目な働きぶりで信頼を集めた「一族の大黒柱」が倒れ、栄子さんたちは「紀久治さんが亡くなり、不安はあった。それでも、自分たちが紀久治さんのタンメンを残していかないといけない」と覚悟を決めた。１９７６年には、栄子さんは夫とともに須賀川市大町で独立。紀久治さんの店と同じ「宝来」の屋号を継いだ分店として新たなスタートを切った。

　分店が開業して十数年たったころ、栄子さんの長男正博さん（５５）と次男賢治さん（５２）は調理を任され始めた。１８歳ごろから調理場に入った賢治さんは仕事の傍ら、毎日のように父の作るタンメンを食べて、伯父の紀久治さんから続く「伝統の味」を体に刻んだ。

　タンメンの繊細な味わいは、紀久治さんの味を知る常連客からも学んだ。常連客は麺をひと口すすると、「紀久治さんのタンメンはもう少し味が濃かった」「塩気が足りないんじゃないか」と助言してくれた。賢治さんは「微妙な味加減を知る常連さんの言葉で、少しずつ『なじみの味』に近づけることができた」と感謝を口にする。

　当時は店の駐車場が２台分のみだったため、売り上げの大半は出前。紀久治さん亡き後も味を守ったタンメンは不動の人気商品で、出前の注文がひっきりなしに入った。正博さんは「タンメンの注文はよく入ってきた。スクーターでタンメンを届け、店に帰るとまたタンメンを積み、届けに行っての繰り返しだった」と懐かしむ。

　今でも一番緊張

　その後、店は国道４号に近い住宅街の一角に場所を移し、店名も心機一転して現在のものとなった。１５台分の駐車場と座敷席を備えた店は、近くの住民や家族連れなど多様な客層がのれんをくぐる。近年は郡山市など須賀川市外からの来客も増えてきた。

　移転して２０年以上がたつ今も、紀久治さんのころからの常連客が顔を出し、タンメンを注文する。「タンメンを作る時が、今でも一番緊張する。『受け継がれた原点の味を出さなければ』と、気が引き締まる」と賢治さんは笑う。

　移転後は激辛ブームに合わせて新メニューの「からしみそラーメン」を開発するなど、伝統を守りながら進化も続ける。「昔から受け継がれた部分を大切にしつつ、時代のニーズに合った料理も開発したい」と賢治さん。伝統と革新の両輪で、これからも来店客の胃袋をつかんでいく。（秋山敬祐）

【住所】須賀川市山寺町２３３

【電話番号】０２４８・７６・２８８８

【営業時間】
午前１１時～午後２時３０分

【定休日】
日曜日

【主なメニュー】
▽タンメン＝８００円
▽餃子（ギョーザ）＝４５０円
▽やきそば＝７００円
▽チャーハン＝８００円
▽五目ラーメン＝８５０円
▽広東メン＝８５０円
▽からしみそラーメン＝８５０円
▽ワンタンメン＝８００円
▽中華丼＝８５０円
▽ラーメン＝６５０円

【店主メモ】食品衛生優良施設として厚生労働大臣表彰を受けるなど、特に衛生面に気を使っている。テーブルや調理場から店内の飾りなど隅々に至るまで清掃を欠かさない。賢治さんは「きれいな場所で食事を楽しんでもらうため、気が付いたらすぐに清掃を心がけている」と話す。

看板メニューのタンメン。「須賀川元祖」の味を引き継いでいる（吉田義広撮影）

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　まち中華物語は福島民友新聞社とＮＨＫ福島放送局の連携企画です。ＮＨＫラジオ第１で毎週木曜日に放送される『こでらんに５　ｎｅｘｔ』（休止の場合あり）のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。