【まち中華物語】福来臨・南相馬市 日本人好みの味追求

 
店を切り盛りする馮さん(左)、王さん夫婦。開店してから14年で地域の人気店となった(石井裕貴撮影)

 知人のつてをたどり、中国出身の夫婦が南相馬市に根を下ろして14年が過ぎた。厨房(ちゅうぼう)担当の馮王春(ひょうおうしゅん)さん(49)と、妻の王灵珠(おうれいしゅう)さん(46)が営むアットホームな店だ。

 店は市役所や銀行などが並ぶ市の中心部。赤い柵と竹垣が目印の店は昼食時、会社員らで混んでおり、次々と入店する様子は地域の見慣れた風景だ。「日本人はずっと仕事をしてるね」。忙しい日本のサラリーマンに少しでも満足してもらおうと、日本人好みのメニューが並ぶ。

 来日したのは2002(平成14)年。中国で結婚後、日本の賃金の高さにひかれ、娘を連れて家族3人で海を渡った。宮城県石巻市で貿易関係の仕事に就いたが、労働時間の長さに苦労する毎日が続き、日本で「脱サラ」を決意した。

 そこで始めたのが、中華料理店での味の研究だ。開店までに中国人経営の店を訪ね、日本人好みの味を探求したことが店のベースになっている。「日本人は甘い味付けが好きで、香りが強すぎるのは駄目。見た目や盛り付けも大切なんだ」

 研究の末、完成したのが看板メニューの「広東(カントン)メン」。コクのある甘めのあんに包まれた野菜やキノコ、肉、エビなどがつやつやと照る。見た目からも食欲をそそる一品で開店して以降、不動の人気1位。「栄養バランスもいいよ」と胸を張る自信作だ。

 客の要望受ける

 日本発祥の料理も貪欲に取り入れている。客の要望を受け、提供を始めた「冷やし中華」はその一つ。夏の人気メニューとなった。「日本のサラリーマンは夜、ストレス発散のためにお酒を飲むね」と話すように、日本に合わせて宴会メニューも取りそろえる。

 開店してから14年の中では、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故も経験した。家族で一時的に中国に避難したが、3カ月後には馮さん一人で日本に戻り、店を再開した。当時は閉めている店が多く、市民にとって待望の飲食店再開だったため、すぐ満席になったという。

 ただ、馮さん一人で切り盛りしていたため、手が回らない状態に。その状況を見かねた近所にあるはんこ店の女性が、エプロンを着けて店を手伝ってくれた。今でも感謝しており、忘れたことはない。

 次女が両親支える

 最近は、日本で生まれ育った次女の康恵さん(18)が週末に店を手伝ってくれる。客の注文を受けたり、配膳や皿洗いしたり、働き者の両親を支えてくれている。頼もしく成長した娘の姿に、馮さんは目を細める。

 海外に移住した中国人は「華僑」と呼ばれ、世界各地でたくましく生活している。馮さんもその一人だ。「『郷に入りては郷に従え』だよ」。そう穏やかな笑みを浮かべる馮さんは料理を通して南相馬になじみ、家族の歴史をつくってきた。

 馮さんは最近、腰を痛めて思うように鍋を振れないことが気がかりというが「できるところまではやり続けるよ」。家族が根付いた南相馬で日本人のための中華を守っていく。(坪倉淳子)

お店データ

福来臨の地図

【住所】南相馬市原町区本町1の85

【電話】0244・23・2118

【営業時間】午前11時~午後2時、午後5時~同10時

【定休日】毎週木曜日

【主なメニュー】
▽広東メン=880円
▽台湾ラーメン=600円
▽辣子鶏(ラーズージ)=850円
▽餃子(ギョーザ)(6個)=420円
▽炒飯(チャーハン)=750円
▽回鍋肉(ホイコーロー)定食=950円
▽ニラレバー定食=950円
▽エビチリソース=950円
▽冷やし中華(夏季限定)=800円

【店主メモ】仲良くなった常連客から旅先のお土産をもらったり、一緒に中国旅行に行ったりした思い出がある。「日本人は優しいね」と笑顔が絶えない。

広東メンや炒飯「広東メン」(手前)や炒飯(左)など日本人好みの味付けを意識したメニューが並ぶ

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。