【まち中華物語】清来軒・西郷村 街とともに路線変更

 
2代目店主の鈴木さん(中央)、弟の忍さん(右)、母親の美沙子さんの家族3人を中心に切り盛りしている

 親子3人を中心に営む店は街の発展とともに、ラーメン店から中華料理店へと業態を変化させてきた人気店だ。開店したのは1975(昭和50)年。歩いてわずか2分ほどの場所にある新白河駅も今の姿ではなかった。2代目店主の鈴木克博さん(52)は「当時は周りが田んぼばかりで、出前が多い店だったんだよね」と思い出す。

 店周辺が変化し出したのは約40年前からだ。東北新幹線が82年に開業すると、磐城西郷駅という東北線の駅が新幹線が停車する新白河駅に名を変え、周辺は徐々に一戸建て住宅やアパートが増加。人の流れが変わり、昼食時ににぎわう店となっていった。鈴木さんは「車が普及し、昼ご飯を食べに来る人が増えたんじゃないかな」と話す。

 修業の成果発揮

 鈴木さんが料理修業に出たのは新幹線開業から数年後。福島市にある中国飯店「精華苑(せいかえん)」の従業員となり、中華料理のイロハを学び始めた。バブル期だった当時、福島競馬場内などの店舗で調理をして技術を磨いた。朝から晩まで修業漬けの日々。鈴木さんのように弟子入りの人も多く、仲間と切磋琢磨(せっさたくま)した時代だった。

 店の路線が本格的に変わったのは、鈴木さんが約6年にわたる料理修業を終え、帰郷してから。ラーメンに加え、肉炒めや野菜炒め、ハムエッグ、カツ丼―。素朴でボリュームある定食メニューも人気だった当時、「せっかく中華料理を修業してきた。中華のメニューも増やしていこう」と少しずつ変えていった。初代店主で父の整(ただし)さんの理解を得ながらの路線変更だった。

 父の心受け継ぐ

 現在のメインは四川料理となった。3年熟成した豆板醤(トウバンジャン)や自家製の調味料を合わせたマーボー豆腐、自家製の酒醸(チューニャン)を使用したエビチリが人気だ。ラーメン店だったノウハウを生かしたエビチリタンタンメンや、サンラータンメンも数多くの注文が入るメニューだ。

 「父が家族を大切にしていた姿を見ていたのも家業を継いだ理由の一つ。小さい頃から父から仕事の話を聞くうちに、面白そうだと思ったから後を継ぐと決めた」。そう感謝する父整さんは2019年に72歳で亡くなった。月に1度は連休を取り、店を休んで旅行に連れて行ってくれる家族思いの父だった。

 そして、仕事でも基本を大事にする人だったという。「父は鶏ガラの掃除などがとても丁寧で、教えてもらったスープの取り方や仕込みの基礎は今も続けている」と鈴木さん。整さんが亡くなってからは、母美沙子さん(76)、弟忍さん(50)、パート従業員とともに切り盛りしている。

 「家族で店をやっている分、料理に対する考え方で衝突する時もある。それでも、基本は家族の仲がいいよ」と笑う鈴木さん。「丁寧な仕事をするのはもちろんだが、お客さんを待たせてはいけない」と心がけ、厨房(ちゅうぼう)を仕切っている。整さんが残した仲のいい家族が作る優しい味が人気の秘密なのかもしれない。(伊藤大樹)

お店データ

中華食堂ちんめんの地図

【住所】西郷村字道南西106

【電話】0248・22・8617

【営業時間】午前11時~午後2時 午後4時45分~同9時(ラストオーダー午後8時)

【定休日】火曜日、第3月曜日

【主なメニュー】
▽エビのチリソース定食=1000円 ▽マーボー豆腐定食=950円
▽サンラータンメン=950円
▽エビチリタンタンメン=1000円
▽ラーメン=700円
▽五目あんかけラーメン=950円
▽五目あんかけ焼きそば=950円
▽焼き肉丼=900円
▽中華丼=900円
▽チャーハン=800円
▽焼き肉定食=1000円
▽野菜炒め定食=950円

【店主メモ】趣味は温泉巡り。県内や栃木県那須町などに毎週出かけ、仕事の疲れを癒やしている。「温泉巡りが待っているから、仕事を頑張ることができる」と笑う。

人気メニューのマーボー豆腐定食(左)とサンラータンメン人気メニューのマーボー豆腐定食(左)とサンラータンメン(吉田義広撮影)

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。