【まち中華物語】お食事処ふる里・大玉村 農家の思い「力飯」に

 
荒川さん(右)は地元産食材を提供してくれる矢吹さんと情報交換しながら、料理作りに励む(吉田義広撮影)

 コメどころとして知られる大玉村の田園地帯を抜けた安達太良山の麓に店はある。店構えや店名からは想像のつかない"中華のおいしい店"として地域に愛されている。

 ご飯に合う料理

 中華料理がメニューに並んだのは2020年からだ。店が入る温泉宿泊施設「アットホームおおたま」が19年5月に改装オープンし、翌年から料理長に就いた同村出身の荒川幸則さん(50)の発案だった。

 「決して立地条件が良いとは言えない。遠出をしてでも、わざわざ食べに来たいと思う料理を出したかった」と荒川さん。「ご飯に合う料理を」と、大玉産のコメと野菜を使ったレバニラやホルモン定食を柱に据え、周辺地域に少ない担々麺や、汁なし担々麺などもメニューに取り入れた。

 当初は「受け入れてもらえるか不安があった」。加えて、新型コロナウイルス禍で宴会の予約や宿泊客が減る中での挑戦だった。だが、その不安は消し飛んだ。村の食材を使った中華料理は「農家の力飯」として受け入れられ、口コミで広がり、昼の来店客はコロナ禍前を超え、右肩上がりで伸びた。

 ユーリンチーやホイコーロー定食などの週替わりメニューの豊富さも相まって、村外からの客も増え、エントランスには時折、空席待ちの客が出るようになった。

 意外なのは、荒川さんの本職が洋食ということだ。経歴を聞くと「あちこちだよ」と本人も戸惑うように、和洋中さまざまな場を踏んできたことが、今に生かされている。高校卒業後に料理人の道を歩み始め、県内のホテルや専門学校、飲食店で働いて修業を積んだ。32歳で上京すると、首都圏でレストランや医療福祉施設の食堂の開店に携わり、調理指導の役目も担った。

 仕事柄、多くの料理人に出会ってきた。「将来、定食屋をやってみたいと思っていた。だから、いろいろな仕事をする中で『広く、少しだけ深く』の精神で、専門ではない中華や和食も学ばせてもらった」。時には教えを請い、貪欲に調理法を吸収し、中華の腕も磨いた。

 震災機に古里へ

 都内で忙しく働いていた時、東日本大震災が発生し、古里への思いを強くした。「当たり前だったキュウリ畑の風景や、古里の味が頭に浮かんだ。これまでのノウハウを生かして、地元で仕事がしたい」。40歳を前にして帰郷を決意した。そして、古里で仕事を模索していた時、人の縁と思いがつながり、現在の職場に行き着いた。

 地元を離れて分かったのはコメや野菜、水、空気の豊かさだ。それもあって、地元生産者の思いを大切にしている。農産物を仕入れる地元のあだたらの里直売所には、毎朝のように顔を出し、作り手の思いに触れている。

 直売所店長の矢吹吉信さん(49)とは「一緒に生産者の思いを伝えていこう」「大玉の農産物をPRすっぺ」と語り合うこともしばしば。不思議と仕事への使命感が湧き出てくる。

 「生産者の思いを料理を通して『浮かび上がらせる』ことが、この店の役目だと思っている。俺には料理しかないから」と荒川さんの言葉に力が入る。古里で働く責任と幸せを感じながら、厨房(ちゅうぼう)に立ち続ける。(佐藤智哉)

お店データ

お食事処ふる里の地図

【住所】大玉村玉井字前ケ岳、アットホームおおたま内

【電話】0243・48・2026

【営業時間】午前11時~午後2時30分(ラストオーダー午後2時)

【定休日】水曜日

【主なメニュー】
▽レバニラ炒め定食=850円
▽担々麺=980円
▽汁なし担々麺=980円
▽ホルモン定食=850円
▽野菜炒め定食=850円
▽ラーメン=800円
▽味噌(みそ)ラーメン=850円
▽週替わり定食=980円

【店主メモ】日曜大工が趣味。アットホームおおたま内の売店の棚や店の看板は、自ら改装して作った。施設内の温泉に入ってリフレッシュすることもある。「美肌の湯で気持ちいいですよ」とPRする。

レバニラ炒め定食と担々麺人気メニューのレバニラ炒め定食(手前)と担々麺

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。