【まち中華物語】中華飯店はやま・郡山市 あふれる料理と愛情

 
「お客さんがわざわざ来てくれることは本当にありがたい」と話す高野さん夫婦(石井裕貴撮影)

 郡山市麓山の中央公民館近くに創業54年の中華飯店がたたずむ。破格の値段で山盛りのラーメンなどを提供し、サラリーマンらの胃袋を支え続けている。店主の高野輝次(てるじ)さん(76)は「これでもかというほどの量を作っても、ぺろりと食べてもらえるのがうれしい」と優しい笑顔を見せる。

 食べるのが好き

 高野さんが料理人を志したのは中学生の時。父親が営んでいた自転車店を継ぐという選択肢もある中、「食べるのが好きだから」という理由で料理人としての道を歩む決断をした。

 中学校を卒業後、親戚の友人が営んでいた須賀川市の中華料理店「満福」で、約1年間にわたり中華料理のイロハを学んだ。食べることは好きだったが、料理は初心者。「鍋肌をなめて味を覚えた」と当時を振り返る。

 その後、東京都板橋区の大衆食堂で約1年間、郡山市の中華料理店で約半年間修業を積み、1968(昭和43)年に現在地の同市麓山の実家で店をオープンさせた。21歳の時だった。

 開店から1年後には、年上の妻トラヨさん(79)と市内で開かれたコンサートで出会い、人生のパートナーとなった。トイレのため高野さんが一度離れた席にトラヨさんが座っていたのがきっかけだったという。結婚を機にトラヨさんは洋裁業の仕事を辞め、現在に至るまで高野さんが調理、トラヨさんが接客を担当し、二人三脚で店を守ってきた。

 店の看板メニューは、開店当時と変わらず野菜たっぷりの「タンメン」。500円とは思えないほどのボリュームで、スープは丼からあふれ出している。「若い人は野菜不足の人が多いでしょ。だから野菜をたくさん食べてほしくて」と高野さん。若者の体を気遣う店主の優しさから生まれたメニューだ。

 ほかにもオムライスやカレーライス、オムレツなど、中華料理のみにとどまらず豊富なメニューを取りそろえている。「お客さんに言われたら、何でも作らないといけないという気持ちになっちゃってね」と高野さんは笑う。

 客の手助け感謝

 最後に値上げをしたのは10年ほど前。「高齢になり、お代を計算しやすいように」と20円だけ値上げし、480円のメニューは500円に、680円のメニューは700円にした。物価高の影響はあるが、高野さんは「今後もお客さんのために値上げはしない」と言い切る。

 3年前にはトラヨさんが、くも膜下出血で倒れ、約3カ月にわたり入院を余儀なくされた。その間も「よそに行ってもこのタンメンは食べられないから続けてほしい」との声が常連客らから相次ぎ、高野さんが一人でほぼ毎日営業を続けた。

 トラヨさんが倒れたことを耳にした客の中には、店を掃除してくれたり、食べ終わった後に皿を片付けてくれたりする人もいたという。トラヨさんは「お客さんが店をつないでくれた」と涙ながらに感謝する。

 「きれいなお店がある中で、高齢の私たち2人が営む昔ながらの店に、お客さんがわざわざ来てくれることは本当にありがたい」と高野さん夫婦。これからもボリューム満点な料理とともに、あふれるほどの愛情を届けていく。(阿部二千翔)

お店データ

中華飯店はやまの地図

【住所】郡山市麓山2の8の4

【電話】024・932・3083

【営業時間】午前11時~午後6時

【定休日】日曜日、祝日

【主なメニュー】
▽ラーメン=500円
▽タンメン=500円
▽チャンポン=600円
▽あんかけ焼きそば=650円
▽カレーライス=650円
▽オムライス=700円
▽チャーハン=650円
▽エビチャーハン=750円
▽レバいため定食=800円
▽野菜いため定食=700円

【店主メモ】趣味はカラオケ。歌手村田英雄のものまねカラオケ歌謡大会にも出場したことがある。食べ歩きも趣味で「好きな食べ物は中華ではなく、すし」だという。

タンメンとエビチャーハンタンメン(右)やボリュームたっぷりのエビチャーハン(左)が創業以来の看板メニューだ

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜に連携企画

 まち中華物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。