【まち食堂物語】つばめや食堂・棚倉町 待っている人がいるから

 
つばめや食堂の店頭に立つ斉子さん。「体が続く限り、まだまだ働くつもり」と意欲満々だ(石井裕貴撮影)

 70年前から人気

 棚倉町のJR磐城棚倉駅から徒歩1分。平日の午後2時過ぎにもかかわらず、常連客でにぎわう店がある。「この店は、みんなのよりどころ」「地域の人が自然と集まってくる」―。訪れる人は口々に店への愛を語る。

 創業は70年以上前。店主の斉子保芳(さいす・まさよし)さん(72)が生まれたときには既に町の人気店になっていた。店を開業した父喜久男さんは新潟県燕市出身。「燕市から名前を取り、店名を『つばめや食堂』にしたらしい」と斉子さんはほほ笑む。

 約15年前までは店の隣で「つばめや旅館」も経営し、旅館・飲食店として営業していた。約30年前のバブル期には多くの旅行客やビジネスマンが泊まりに来ていたという。

 こうした環境で6人兄弟の四男として生まれた斉子さん。上の3人は大学に進学する中、斉子さんは料理人の道に足を踏み入れた。「勉強するのが嫌だったから」と斉子さんは笑う。高校卒業後、都内の飲食店「ニュー東京」で7年間修業に励み、中華料理などの腕を磨いた。

 修業から戻ると、25歳の若さで店を継いだ。「学生にもおいしい料理を食べてほしい」との思いを込め、小中高生にはラーメンが350円、カレーライスが400円と格安で料理を提供する。その思いは昔も今も変わらないままだ。

 2017年の5月には、落語家笑福亭鶴瓶さんと俳優向井理さんがテレビ番組の撮影で来店した。斉子さんは「突然のことでびっくりした」と振り返る。カレーライスとチャーハンを提供すると、おいしそうに食べてくれたという。「鶴瓶さんは年が近くてとても優しい方だった。向井さんはこの辺では見たことがないレベルでかっこ良かった」と思い出話を披露した。

 テレビ番組が放映されると、これまで以上に店が多くの利用客であふれた。「鶴瓶さんと同年代の方が大勢来てくれた。あれだけお客さんが来てくれたのは初めてだった」と振り返る。そんな"鶴瓶・向井理ブーム"は約2年間も続いたという。

 まだまだやれる

 ブームが続き、多くの利用客でにぎわう一方、斉子さんの体にも負担がのしかかっていた。20年4月に脳梗塞で倒れたのだ。後遺症で口にまひが残り「もうやりきった。店もたたんでしまおうか」と弱気になった時期もあった。それでも、医師の励ましや、多くの常連が店の開店を待っていることを糧に、復帰を決意した。今では元日や盆にも店を開けるほどの元気を取り戻した。

 「いつでも店が開いてるから、自然と足を運んでしまう」という常連客の男性は「カツカレーがお気に入り。家では作れない味がする。息子はここのチャーハンが好きで『食べに行きたい』とよくねだられる」と笑顔を見せる。温和な表情の斉子さんの元に、近所の常連客らが食べ物を持ち寄り、みんなで食事をする憩いの場にもなっている。

 料理や会話を楽しむ客に囲まれながら「どうにかこうにか、ここまでお店をやってくることができた」と斉子さん。「体が続く限り、まだまだ働くつもり」と自分に言い聞かせるように話した。(伊藤大樹)

お店データ

つばめや食堂の地図

【住所】棚倉町棚倉字新町28

【電話】0247・33・3322

【営業時間】午前10時~午後8時30分

【定休日】不定休

【主なメニュー】
▽カレーライス=550円
▽チャーハン=600円
▽カツカレー=800円
▽ラーメン=500円
▽タンメン=600円
▽ざるラーメン=500円
▽ざるそば=600円
▽焼そば=550円
▽天ぷらそば=600円
▽天ぷらうどん=600円
▽焼き肉定食=800円
▽鳥カラ揚定食=800円
▽野菜炒定食=800円
▽朝の定食=800円
▽とんかつ定食=800円
▽親子丼=650円
▽玉子丼=650円
▽カツ丼=800円

カレーライスとチャーハンカレーライス(手前)やチャーハン(奥)など、料理は安価で提供する

 看板犬、名はナッチ

 利用客を温かく出迎えてくれる看板犬がいる。名前は「ナッチ」。メスの雑種だ。斉子さんは「夏に生まれたから『ナッチ』と名付けた」とほほ笑む。「仕事以外にやることがない」と、ほぼ年中無休の営業を続ける斉子さんだが、仕事以外の楽しみはナッチとの毎朝の散歩だという。「お客さんもナッチとよく遊んでくれてうれしい」と斉子さん。ナッチもなんだか照れくさそうに尻尾を振っていた。

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。