【まち食堂物語】割烹やなぎや・福島市 客を思うあうんの呼吸

 
二人三脚で店を切り盛りする2代目社長の才機さん(左)と照子さん。二人は「これからもお客さんとのつながりを大事にしたいね」と口をそろえる(吉田義広撮影)

 代名詞はウナギ

 「あー、どうもない」。福島市飯野町の中心部にたたずむ食堂に、威勢のいい声が響き渡る。声の主は2代目社長の若林才機(さいき)さん(78)だ。地域に愛され続けてきた1954年創業の老舗食堂は昼時になると、なじみの客やスーツ姿の客らでにぎわう。「お店に入ってきた瞬間に常連の顔はもちろん、注文する料理もすぐ分かるよ。やなぎやは全てのお客さんに支えられているんだ」と才機さん。幅広い世代をとりこにしているやなぎやの魅力とはいったい何か―。

 才機さんの父で、やなぎやの初代社長は飯野町で「やなぎや食堂」を営んでいた。「当時はかけうどんが25円、支那そばが40円、ライスカレーが60円。戦後でぜいたくできるような時代じゃなかったから、中にはおにぎりを持参するお客さんもいたんだよ」。中学生ながら店を手伝っていた才機さんは振り返る。「当然、父の後を継ぐ流れだった」と中学卒業後は親戚が営んでいた宮城県石巻市のウナギ料理専門店「割烹(かっぽう) 多喜川屋」に就職。5年ほどの修業でウナギのイロハを学び、やなぎや食堂を継いだ。後に、やなぎや食堂はこれまでの料理に加え、ウナギ料理も提供する「割烹 やなぎや」へと生まれ変わった。現在は才機さんと妻照子さん(75)が中心となって切り盛りしている。

 メニューは丼ものからラーメン、うどん、そば、すしと豊富なラインアップで、やなぎやファンの胃袋をつかんでいる。もちろん、やなぎやの代名詞とも言えるのがウナギ料理だ。提供しているのは静岡県の専門店から仕入れている浜名湖産直送のウナギ。一番のこだわりが70余年にわたって継ぎ足しているたれだ。隠し味に黒砂糖をブレンドすることで、こくと深みのあるたれに仕上げている。

 そのたれだが、一部を冷凍保存しているという。聞けば、「地震などでたれがこぼれてしまったら伝統が途切れてしまうからね。それだけウナギのたれは命がけで、なくなってしまったら、いたましいんだよ(もったいないんだよ)」と力を込める才機さん。今年の夏も、やなぎやの一大行事「土用の丑(うし)の日」がやってくる。

 つながりが大事

 才機さんと二人三脚で歩んできた照子さんだが、昨年7月にくも膜下出血に倒れてしまった。それでも「お客さんの顔が見たい」との強い思いを抱き続け、リハビリを経て復帰を果たした。才機さんは「二人(才機さんと照子さん)のどっちかの姿が店にないと、お客さんが『あれ、今日はいないの?』って気にかけてくれる。料理の味はもちろん、やっぱりお客さんとお店のつながりが一番大事なんだよな。なあ母ちゃん」。「そうだねお父さん」。客を思うあうんの呼吸が、多くの人の心を引きつけてやまないのだろう。

 やなぎや食堂時代の常連や、当時は子どもだったが親になって来店する客など、時代を経てもやなぎやは愛され続けている。「『また来ますよ』『おいしかったです』―。こういうお客さんからの言葉が何よりの励みだね。健康なうちは頑張らないと。生涯料理人だからね」。今日ものれんをくぐれば"いつもの"声が聞こえてくる。(福田正義)

お店データ

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地域に愛され続けている「割烹 やなぎや」。のれんをくぐれば人情味あふれる若林さん夫婦が待っている

230521syokudo1.jpg【住所】福島市飯野町字後川8の3

【電話】024・562・3115

【営業時間】午前11時~午後2時

【定休日】月曜日

【主なメニュー】
▽うな重(特上)=4100円
▽うな重(上)=3400円
▽うな重=2700円
▽柳とんかつ定食=1700円
▽寿司天定食=1900円
▽野菜炒め定食=900円
▽しょうが焼き定食=900円
▽エビフライ定食=1400円
▽オリジナルカツカレー=1400円
▽特上天丼=1500円
▽親子丼=800円
▽カツ丼=900円
▽生寿司(上)=2千円
▽支那そば(しょうゆラーメン)=750円
▽肉うどん=750円
▽肉そば=750円
▽冷やし中華(夏季限定)=950円

230521syokudo2.jpgやなぎや自慢のうな重(手前)や、厚さ3センチの豚肉が特徴の柳とんかつ定食(右奥)、生寿司など豊富なメニューを用意している

 飾られた額の言葉

 店内の一角に飾られている額に目が留まった。額の中の色紙には「やまとなる国に なを上ぐ ぎょう天の味に やなぎや千客万来」と筆文字で書かれている。「あいうえお作文」のように、文章の頭文字を読むと「やなぎや」となっているから驚いた。才機さんは「知人から譲り受けた額で、やなぎやにぴったりな言葉。『柳に雪折れなし』と言ってね、この先どんな苦境があろうとも店を守り続けていくよ」と語る。

          ◇

 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。