【まち食堂物語】アタミ食堂・喜多方市 王道の鳥もつ、家族の味

 
鶏皮をじっくりと煮込むいく子さん(右)。和久さんと協力して店の味をつないでいる(石井裕貴撮影)

 銭湯時代の名残

 JR塩川駅近くに喜多方市塩川町のご当地グルメ「鳥もつ」が味わえる老舗食堂がある。昼は常連客や県内外から訪れた観光客が白米とともに鳥もつを頬張り、夜は若者らが鳥もつをつまみに酒を酌み交わす。昼も夜も塩川名物を堪能することができる食堂は、訪れた人を一瞬にして"鳥もつファン"にしている。

 「塩川の鳥もつは食堂によって作り方も味も全然違う。うちは奇をてらったものではなく、スタンダードなしょうゆベース。子どもから大人まで食べやすい」。店主の斎藤いく子さん(74)と長男和久さん(50)は先代から受け継がれてきた伝統の味に自信を持つ。

 「もつ」と言えば牛や豚などのホルモンをイメージするが、塩川町の食堂では鶏皮を煮込んだ「鳥もつ」が提供され、町内の食堂の定番メニューとなっている。地域活性化につなげようと、2010年には「塩川鳥モツ伝承会」が設立され、同店も加盟し活動してきた。

 食堂の創業は昭和初期。食堂を始める前は銭湯を営んでいた。店名は温泉が有名な静岡県熱海市にちなんで「アタミの湯」。いく子さんの祖母トシイさんが「女性でも働ける仕事」として食堂を始め、銭湯の店名から「アタミ食堂」と名付けた。

 いく子さんは20歳のころから、母美知子さんから調理方法などを学び、厨房(ちゅうぼう)に立つ。知り合いの紹介で税理士事務所に勤めていた夫博さんと出会い、1971年に結婚。博さんはその後、「家族との時間を大事にしたい」と税理士事務所を辞め、食品メーカーで働いていた経験を生かして食堂の仕入れなどを担った。

 94年には埼玉県の焼き肉店で働いていた和久さんも加わり、およそ30年にわたり親子3人で店を切り盛りしてきた。しかし博さんが2年ほど前に心臓の病気で倒れ、昨年2月に帰らぬ人となった。いく子さんは「夫はお客さんのことを思って食材はいいものを使わないといけないよと常々言っていた。いい人と巡り合えたね」と亡き夫を思い出す。

 博さんが亡くなってからは、いく子さんと和久さんが2人で協力して店を守っている。いく子さんは「お客さんと話すことが何よりも楽しくてね」とほほ笑み、和久さんは「飲食店が減る中、地域にとってなくてはいけない存在になっている」と胸を張る。

 白米と相性抜群

 店の人気メニューは「小モツ定食・小ラーメンセット」。鳥もつは軟らかくて癖がなく、もつが苦手な人でも平らげることができる。白米との相性も抜群だ。このほか、喜多方ラーメンやソースカツ丼など40種類以上の豊富なメニューを取りそろえている。

 メニューを減らすことを考えたこともあるが「メニューを見ると、いつも注文してくれるお客さんの顔が思い浮かんで、なかなか減らせなくてね」と、いく子さんは笑う。

 鳥もつはテイクアウトすることもでき、食堂の味を家庭でも楽しむことができる。「離れて暮らす子どもに送りたい」と利用する客も多い。塩川の味を心待ちにしている人のため、斎藤さん親子はこれからも食堂の歴史をつないでいく覚悟だ。(阿部二千翔)

お店データ

 二人三脚で店を切り盛りするいく子さん(右)と和久さん

230528syokudou3.jpg【住所】喜多方市塩川町字新丁1825

【電話】0241・27・4109

【営業時間】午前11時~午後8時

【定休日】不定休

【主なメニュー】
▽ラーメン(油、みそ、塩)=700円
▽タンメン(油、みそ、塩)=800円
▽モツラーメン=800円
▽冷やしラーメン=700円
▽冷やし中華そば=800円
▽モツ=600円
▽煮込みカツ丼=1100円
▽ソースカツ丼=1100円
▽小モツ定食・小ラーメンセット=1000円

230528syokudou4.jpg店の人気メニュー「小モツ定食・小ラーメンセット」。40種類を超える豊富なメニューを取りそろえている

 絆をトリモツ一言

 鳥もつのテイクアウト用の真空パックには「鶏皮をじっくりと煮込んだ鳥モツ 仲をトリモツ美味しさです」と書かれている。これは博さんが生前に考案したもので、いく子さんは「夫は鳥もつの食文化が塩川でいつまでも続いていけばいいなと願っていた。常に、にこにこしていて店の顔となっていた」と振り返る。真空パックは250グラムで650円。イベントの際は500グラムも可。容器に詰めて持ち帰ることもできる。

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 NHKラジオ第1「ふくどん!」で毎週木曜に連携企画

 まち食堂物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『ふくどん!』(休止の場合あり)のコーナー「どんどんめし」で紹介される予定です。