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  【 福島の万葉歌碑TOP 】
「金沢」(南相馬)
真金吹く丹生の真朱の色に出で言はなくのみそ吾が恋ふらくは
 
 率直可憐な女性の思い

 平成10年3月、南相馬市原町区金沢の東北電力原町火力発電所構内に、

 真金(まがね)吹く丹生(にふ)の真朱(まそも)の色に出で言はなくのみそ吾が恋ふらくは(巻14・3560)

の歌碑が建立された。

 同歌は『万葉集』中の未勘国歌(詠(よ)まれた国が不詳の歌)とされていたが、近年、この地域において詠まれたものとの考証が進められたため、同地に歌碑として建立されたものである。台座とも高さ約3メートルの堂々とした歌碑である。

 歌碑の近くには「金沢埋蔵文化財保存館」が建てられており、古代の製鉄の様子などが見学できる。

 本碑については、筆者が多くの説明を加えるよりも、歌碑の台座部分に刻されている「建碑の記」を読む方が理解しやすいと思われるので全文を紹介しておく。

 建碑の記

 阿武隈山地の東側一帯、海岸に近い地域には製鉄遺跡が多いが、とくに原町市金沢の辺は古く「和名抄(わみょうしょう)」にも見える。/真〓郷(まぶきごう)の地で、鉄を吹いた代表的な場所である。火力発電所の建設にともない、県教育委員会が調査主体となり県文化センターによって平成元年から数年がかりで発掘した結果、東日本最古(7・8・9世紀)で国内最大級の遺跡であることがわかった。多くのかま跡や遺物、たて穴住居跡などが発見され、万葉集に歌われた真〓郷がその中心であることがわかったことも大きな発見であった。/事業主体の東北電力の協力によって、記念のためこの碑を建てる。/平成10年3月

 万葉集にあるこの歌は発掘による実地検証の成果で、「和名抄」の真〓郷の地であることが「日本地理志料」などをもとにした鈴木啓氏等の考証で立証され確認することができた。/この歌の作者は若い女性で、真金吹くは鉄を精錬すること、丹生の真朱は赤土の赤い色のこと、真金吹く丹生の真朱までは、赤い色を言うための序の詞で、「私はあなたを深く恋したっているのですが他人には知られないように顔色に出さないようにしているだけです。」という率直可憐な歌である。/文学博士 岩崎敏夫書並撰文

 「建碑の記」にもあるとおり、この万葉歌の故地を金沢遺跡と定めたのは鈴木啓(郷土史家、福島市在住)の考証によるところが大きい。同発電所の立地個所を中心に点在する製鉄遺跡群が金沢遺跡である。特筆されるのは8世紀後半から9世紀初頭にかけての鉄滓(てつし)が多く発見されており、この期に集中的増産がみられることである。

 これは、桓武(かんむ)天皇・坂上田村麻呂の第一次征討から文室綿麻呂(ふんやわたまろ)の弐薩体(にさて)・閇伊(へい)村征討と重なることから、蝦夷(えみし)征討の中心である国府(多賀城)を支える武器生産の官営工場と考えられている。

 なお、同発電所、金沢埋蔵文化財保存館および歌碑等を見学するためには予約が必要なので、連絡先等を付記しておく。

 郵便番号975―0021、南相馬市原町区金沢字大船白54、東北電力株式会社原町火力発電所総務グループ広報担当、電話0244・24・1614(敬称略)
 (福島短歌研究会会長)
〓は(句と欠の合わせ文字)

今野 金哉

>>>

東北電力原町火力発電所内に立つ「金沢の歌碑」



【2008年1月30日付】
 

 

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