◇田中須美子さん(94)《9》使う人のこと思い作る

 

◆クラロン会長

「あれはうちの製品かしら」

 学校の運動着を着て街中を歩いている子どもを見掛けると、どうしても気になります。

 全ての学校に製品を納めているわけでないことは重々承知してますが、子どもたちの運動着がうちの製品でないとがっかりします。

 創業63年。クラロンは、本県をはじめ東北6県と新潟県、北関東の小、中学、高校の約千校から注文を受けるようになりました。亡き夫や、社員が必死に頑張ったこともありますが、多くの人に製品の良さを認めてもらっているからに違いないと思っています。

 「運動着を着られない子どもが一人でもいないようにしたい」

 育ち盛りの子どもは体格がまちまち。地域によっては入学する子どもの数が少ない学校もあります。だから運動着の注文は、上下のサイズが違ったり数が少なかったりします。

 クラロンは1枚からでも注文を受け、子どもの体格に合う運動着を届けることを守り続けてきました。機械で生地を裁断して大量生産する大手にはできない、小回りのきく丁寧な仕事がうちならではの特徴です。

 もう一つ、丈夫さという強みがあります。

 小学生は6年、中高生は3年間、学校に通います。すぐ駄目になるような製品は作れません。商売上、何枚も買ってもらう方が売り上げになりますが、学校に通う間、1着で事足りるような丈夫な運動着を作ります。

 「子どものお下がりなんだ」

 運動着で畑仕事をする人に言われます。昨年は、11年前の古い運動着が届きました。袖口がすり切れただけでまだ着られる状態。修理も大切な仕事なので、袖口を取り換えて送り返しました。「お子さんはもう社会人のはず。親御さんが大事に着てくれている」。そう思うとうれしくなります。

 使う人のことを思って作るのがメーカーの使命です。使ってくれる人から「クラロンの運動着は丈夫だね」と褒められ「ありがとうございます」と誇りを持って答えられる製品を作り続けます。