◇田中須美子さん(94)《12》仕事は二の次にしよう

 

◆クラロン会長

 みんなが楽しく働くことができる場所。私は、夫から引き継いだクラロンをそんな会社にしたいと思っています。

 クラロンは、障害のある子を多く採用していますが、女性も高齢の人たちもたくさん働いてくれています。

 社員133人のうち、女性は100人近くいて、既婚者も多いです。残業すれば帰る時間が遅くなり、お母さんの帰りが遅いと彼女たちの子どもが寂しい思いをします。「まず家庭が第一。仕事は二の次にしよう」。社員にこう話し、日中に精いっぱい働いてもらって、残業を一切させないようにしています。

 社員には望む限り働いてもらいたいとも思っています。だから60歳の定年を迎えても、1年ごとに延長できるようにしています。

 最高齢は営業課長の女性社員で今年83歳。前の東京五輪の年から働いていて、間もなく勤続55年になります。夫のこともよく知っているし、私の何げない話もメモしていて、よき相談相手として支えてもらっています。

 彼女は、夫の月命日に墓参りも欠かしません。「会社が成長させてくれた」と感謝してくれています。本当にありがたいことです。

 障害のある社員にも50年働いている子がいます。彼ももう66歳。私は社員たちと一緒に働くことで生きる喜び、働く楽しさを感じていますので「死ぬまでここにいて、働いてもいいわよ」と言っています。

 障害者のひたむきなところが社員の手本だということは話しました。女性にもこまやかさがあり、高齢の社員は気配りができます。これらは仕事をする上での長所です。

 世の中では、障害者や女性が働きやすい職場をつくり雇用を増やせと言われるようになりました。これらは創業時から取り組んできたことで、クラロンは何ひとつ変わりません。

 働くことはつらいこともありますが、楽しいことも多いです。働けるから、休日も貴く感じられます。私は利益がそこそこでも、社員に給料をしっかりと払えて、楽しく働ける職場にしたいのです。