◇田中須美子さん(94)《13》 予期せぬ受賞の知らせ

 

◆クラロン会長 

 多くの人にクラロンのことを知ってもらえる出来事がありました。
 それは「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の受賞。大学教授や経営者、弁護士らでつくる経営学会が2011(平成23)年から毎年、従業員や顧客、地域社会などを大切に経営している国内企業を顕彰しています。

 クラロンは15年に最高賞の一つ厚生労働大臣賞に選ばれました。障害者や高齢者、女性を多く雇っているのが主な理由。創業からの理念に合う賞で、とてもうれしく思いました。

 でも受賞は予期せぬものでした。
 「学生にクラロンを見学させたい」。ある時、法大大学院教授(当時)の坂本光司先生から依頼があり、気軽に引き受けました。見学後も坂本先生は一人で来て、会社の取り組みを聞いたり社内を見て回ったりしていました。

 しばらくすると受賞の知らせが届き、坂本先生から「表彰したいので東京に来てください」と言われました。坂本先生はうちが表彰に値するかどうかを調べていたそうです。

 表彰の時には、400人ほどの前で講演しました。他の受賞企業はパネルを使ったりしていましたが、経験のない私は何を話せばいいのかさえ、見当がつきませんでした。

 「自分の言葉で経験を話すしかない」。覚悟を決め、夫から引き継いだ障害者雇用の取り組みや会社の理念などを話しました。途中で目頭を押さえて眠いようなしぐさをする人が見え「退屈な話で申し訳ない」と思いました。

 夜の懇親会で、その見立てが誤りだったと気付きました。主催者の話が終わると、私の前に「感動しました」「今度、訪問させてください」と言う人の列ができました。

 私は、すぐにテーブルのごちそうを食べたかったのですが、列が途切れずに食べられずじまい。帰りの新幹線でお弁当を買って食べ、ようやくおなかを満たすことができました。

 車中、講演の時にはひそかに持っていた夫の写真を胸に抱き「あなたのおかげです。ありがとう」と話し掛けました。この日はくしくも夫の命日でした。