「受け子」は使い捨て バイト感覚で若者勧誘

 
「受け子」は使い捨て バイト感覚で若者勧誘

受け子は土地勘がないため、近距離でもタクシーで移動。スマートフォンで地図などを見ながら行き先を指示する(写真はイメージ)

 「仕事なんだけど、3種類あって」。大島誠也(19)=仮名=は「友達の後輩の友達」だった吉田武(18)=同=にアルバイトを紹介するように気軽な調子で持ち掛けた。

 「おじいちゃんやおばあちゃんに電話をかけて現金を支払うようにだます役で2カ月。現金を受け取りに行く役で1カ月。もう一つは、期間は決まっていないけど中国に行って詐欺の仕事をする」

 吉田は黙って話を聞いていた。大島は少し声を落として吉田に聞いた。「もらえる金なんだけど、中国が一番高くて、次が現金を受け取る役。どれにする?」

 埼玉県の飲食店の一角で昨年7月にあった少年2人のやりとりを捜査関係者が明かした。吉田は、二本松市の女性から500万円をだまし取った詐欺容疑で今年2月、県警に逮捕され、大島もその2カ月後に共犯として逮捕された。

 役割細分化 

 電話で高齢者らを巧みに誘導し、現金をだまし取る「なりすまし詐欺」は、犯行グループの役割が細かく分けられているのが特徴だ。県警によると、電話をかけるのが「かけ子」、被害者の元に出向いて現金を受け取るのが「受け子」、被害者が不正口座に振り込んだ現金を引き落とすのが「出し子」。受け子らを勧誘、雇用する役は「リクルーター」と呼ばれる。大島と吉田はリクルーターと受け子の関係だ。

 報酬3〜5% 

 県警捜査2課によると、リクルーターと受け子の関係は以前からの不良仲間というケースもあるが、リクルーターが偽名を使っていることもあり、受け子が本名まで知っているケースは多くないという。かけ子が被害者から現金支払いの同意を得ると、受け子が首都圏から本県などに直行する。土地勘がないため近距離でもタクシーを利用、スマートフォンで地図を見ながら、運転手に行き先を指示する。顔を隠すためマスクをしているのも多くみられる特徴だ。

 被害者と直接、接触する受け子は犯行グループの中でも逮捕されるケースが最も多いが、報酬は受け取った現金の3〜5%という。見張り役は一律1万円など総じて安い。受け子らは電話での指示を受け、自分の取り分を差し引いて指定された口座に現金を振り込む。受け子はリクルーターとしかつながりがないため、仮に逮捕されても犯行グループの中核にまで捜査が入るのは難しい。

 「受け子の逮捕は一定程度、想定済み。受け子を使い捨てて、次の標的に移るだけ」。県警捜査2課の幹部は犯行グループの手口を指摘する。

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 なりすまし詐欺の昨年1年間の被害額は全国で約566億円。盗みによる現金被害の総額に迫りつつある。県内の今年の被害額は5月末現在で2億円を超え、過去最悪となっているが、犯行グループの全容は見えてこないのが現状だ。捜査関係者や、グループが利用する名簿、私書箱サービスの提供者の話から犯行の実態を追う。