逮捕される若者たち 誘われ「最初の被害者」

 
逮捕される若者たち 誘われ「最初の被害者」

「だまされたふり作戦」の現場となったJR須賀川駅周辺。男は駅とは反対方向から昭子に声を掛けてきた

 須賀川市のJR須賀川駅にほど近い路地。4月2日午前9時すぎのことだった。同市の主婦佐久間昭子(64)=仮名=は「こんなに緊張するとは思わなかった」と、その時を振り返る。警察から渡されたかばんには、地元の銀行の封筒に入った現金250万円が入っていた。

 ■新しいスーツ  

 昭子は息子の貴弘(35)=仮名=を名乗る男から電話を受け、警察に相談。電話を信じたふりをして犯人との接触を図る県警の「だまされたふり作戦」に参加した。

 現れるはずの男は「貴弘が信頼している部下のサイトウ」。指定された場所に着いて数分たったころ、駅とは反対方向から男が「貴弘君のお母さんですか」と声を掛けてきた。貴弘の部下のはずの男が「貴弘君」と言ったことに、昭子は違和感を感じながら、男を見た。スーツは真新しいが、体にサイズが合わず、はち切れそうな感じだった。

 昭子は警察からの指示を思い出し、「(現金を渡す前に)一筆書いて」とサイトウに紙を差し出した。すると、サイトウは手に持っていた携帯電話を昭子に渡した。その電話に出ると、貴弘を名乗る男が「信頼しているやつ。大丈夫だから」と昭子をせかした。サイトウが電話をかけた様子はなく、ずっと通話状態だったようだ。昭子は現金を渡した。

 サイトウは現金を受け取ると、足早に駅と反対の方向に歩いていく。昭子が思わず「駅あっちですよ」と声を掛けたのと同時に私服の捜査員が一斉に飛び出した。

 サイトウは取り押さえられ、埼玉県の22歳の男と判明した。その後、受け渡し時に昭子の近くを通った東京の無職少年(18)も見張り役として逮捕された。

 ■領収書嫌がる 

 県警が今年、なりすまし詐欺に関与した疑いで逮捕した事件は9件。この中で、現金の受け取り役の「受け子」などを務めたとして、少年5人が逮捕されている。

 捜査関係者によると、受け子の少年らは無職やフリーターが中心で現金受け取りの際に領収書を書くように求めても嫌がる傾向がある。どうしても書かざるを得ない場合は、指紋を採取されないよう手袋をするという。

 ある県警幹部は「少年らは『何も知らなかったと言えば大丈夫』などと勧誘され、軽い気持ちで犯行に加担している。犯罪自体は許されないが、主犯らに言葉巧みにだまされるという意味では、最初の被害者でもある」と話す。