回想の戦後70年 食編- (3)白河ラーメン

 

心を込めた一杯を提供し続けている、とら食堂2代目店主の竹井さんと、お薦めの手打中華そば

 しょうゆベースの透き通るようなスープとコシのある麺が人気を集め、県内外で知られるブランドとなった「白河ラーメン」。その代表格が1973(昭和48)年創業の「とら食堂」=白河市双石(くらべいし)=だ。昼時の駐車場には平日でも県外ナンバーの車が並び、1日に約300杯を売り上げる。

 「若者の食生活や味覚が変わり、手に入る食材も変わる。『いつまでも変わらない味』などあり得ない」。2代目店主の竹井和之さん(60)の言葉に職人の気概がにじむ。味への探求心こそが、とら食堂が長年愛され続ける秘訣(ひけつ)だ。
 一方、コシのある手打ち麺と、煮豚でなく焼き豚を使っている点は変わらない。竹井さんにラーメン作りを学び、「とら系」や「とらや分店」ののれんを掲げた県内外の店の多くが、こうした特長を受け継いでいる。

 竹井さんは83年、56歳で急逝した創業者、父寅次さんから店を継いだ。当時28歳。味に自信がなく、5年間は取材を受けなかったが、88年に福島民友新聞に「白河にうまいものあり」という記事が載った後、人気に火がついたという。

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 時は初代、寅次さんのころにさかのぼる。農家の次男として畑仕事に精を出す真面目な寅次さんの姿が、竹井さんの脳裏に焼き付いている。転機は64年5月のこと、自宅が火災で全焼し、田畑を親戚に任せて飲み歩くようになった。そのころ入った店、手作りワンタンで知られる同市本町のまるい食堂で、この店の味に感動。弟子入りしてラーメン人生をスタートさせる。

 「兄を戦争で亡くし、火事もあって人が変わったようになった。その時、ラーメンに出会い『人においしいものを食べさせるのが自分の進むべき道』と思ったのでは」。竹井さんは亡き父の胸中に思いをめぐらす。

 とら食堂開店までの寅次さんの正確な足跡をたどるのは家族でさえ難しい。同市周辺の食堂にラーメンの作り方を泊まり込みで教える「伝道師」になったり、店名もない屋台でラーメンを提供する生活を続けたとされる。竹井さんの中学時代、寅次さんは別の店を持ったこともあったが、半年しか続かなかった。

 とら食堂を創業したのは寅次さんがラーメン人生を歩み始めて9年後。白河の中心部には商店が軒を連ね、活気に満ちていたが、車で15分ほど離れた地元の双石地区に看板を出す。ただ、酒と賭け事が好きで、売上金を手に日中から出掛けることもあった。

 それでも「ラーメン作りに関しては職人肌だった」と竹井さん。寅次さんが半年だけ別の店を出したころ、竹井さんは父からラーメン作りを習ったことがあり、この道を志すきっかけになった。高校卒業後、迷わず、とら食堂に入った。

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 竹井さんもまた、白河ラーメンの伝道師として弟子に指導してきた。開業したら長く続けてほしいので、弟子に取るのは40歳ぐらいまで。湿度や温度によって変わる手打ちの方法や、チャーシューの焼き加減などを習得するには1年以上かかり、修業に耐えられるかも、あらかじめ確認する。

 一度受け入れた弟子には愛情を持って接する。昨年、竹井さんのラーメン人生40周年を記念して開かれた式典のパンフレットには「家族のように大切な弟子のみなさん」として、20人以上の弟子の名前と店の所在地を書き連ねた。

 弟子に教えるのはラーメン作りの技術だけではない。「人格は味に表れる。ラーメンは心で作るもの」と教えてきた。

 数ある「とら系」の店で唯一「とら食堂」の名乗りを許されたとら食堂松戸分店(千葉県松戸市)店主、小林和明さん(40)は2011年、2年3カ月にわたる指導の後で開店した。「最初の2年は技術を学ぶのに必死だったが、余裕ができると、一つ一つのものに真剣に向き合う竹井さんの姿勢から、心の大切さを感じた」と振り返る。「福島に行って心から良かった」。竹井さんの技術と心を受け継いだ後継者たちが、白河発の食文化を広めている。

 白河ラーメン しょうゆベースの澄んだスープと、コシがありスープにからみやすい縮れ麺が特長。具はチャーシュー、メンマのほか、ホウレンソウ、ノリ、ワンタンを使う店が多い。白河市には100軒を超えるラーメン店があり、同市の観光資源の一つになっている。2004(平成16)年から4年間にわたり、同市で全国ラーメンフェスティバルが開かれた。

 とら食堂 白河市では老舗に位置付けられるラーメン店。2014(平成26)年1月にフランス・パリで開かれた「パリ・ラーメンウイークZuzutto」に参加するなど、国外でも名店として認められている。ワンタン麺、焼豚麺、つけ麺なども提供しているが、店主の竹井和之さんのお薦めはシンプルな手打中華そば(680円)で、特に「初めて来店した人には食べてほしい」という。営業時間は午前11時~午後2時30分と、同4時~同6時。月曜定休。場所は中心市街地から県道白河石川線を東へ車で約15分、同市双石滝ノ尻1。電話0248・22・3426