回想の戦後70年 食編- (4)郡山の菓子

 

柏屋の菓子職人が薄皮饅頭づくりの技を伝授する手作り体験は、幅広い人に好評=郡山市・開成柏屋

 全国からの来県者が降り立つJR郡山駅の郡山おみやげ館で、「福島からの土産」に柏屋(郡山市)の「薄皮饅頭(まんじゅう)」、かんの屋(同)の「家伝ゆべし」、三万石(同)の「ままどおる」の人気は根強い。郡山から全国区の菓子に成長した歩みには、終戦の混乱から立ち上がった軌跡が刻まれている。

 柏屋は、戦時中に中小企業を統合して軍需産業の労働者を生み出した企業整備令により休業状態を強いられ、終戦後も品質の良い材料調達ができるまで薄皮饅頭の製造を見合わせた。品質にこだわった薄皮饅頭は1948(昭和23)年に復活。多くの人に歓迎され人気を集めた。

 「旅に育てられた」。柏屋社長の五代目本名善兵衛さん(60)は薄皮饅頭の戦後の歩みを振り返る。薄皮饅頭の評判は高度成長期の観光ブームで全国に広がった。観光客が全国から訪れ、県内の駅や観光地で売れに売れた。先代の四代目本名善兵衛さんが、おいしさを保ち効率的に製造する世界初の自動包あん機を発明し63年に導入。飛躍の原動力になった。

 近代化の一方で、江戸時代の薄皮茶屋の風情を伝える菓子職人の饅頭実演や毎月1回の「朝茶会」を続ける。薄皮饅頭手作り体験も好評。本名社長は「たくさんの人に支えられ、今の薄皮饅頭がある」と強調する。大きな被害が出た86年の「8・5」水害、原発事故による風評被害では、多くの人に励まされた。「時代は変わっても真心を大切にしたい」。164年の歴史に育まれた菓子への想いを語る。

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 江戸時代の城下町・三春のゆべしの伝統を守るかんの屋「家伝ゆべし」は、戦時中、原材料の調達が難しく、製造を中断。困難を乗り越え、復活をしたのは50(昭和25)年だった。

 同社取締役橋本康博さん(55)は「高度成長期、三春と郡山を結ぶ道路整備が大きかった」と同社の足跡を振り返る。同社は61年、郡山市駅前に郡山店を開店し、郡山駅にも家伝ゆべしを納入。三春で長年愛されたゆべしは新天地の郡山でも人気を呼んだ。70年に三春町と郡山市を結ぶ県道が国道288号に昇格するなど、インフラ整備の進展による商品配送の円滑化が追い風になった。

 駅や高速道路のサービスエリア、県内各店で家伝ゆべしの人気が高まる中、独特のもっちりした歯応えとおいしさを保ち、安全衛生に徹するため独自のパッケージ開発に取り組んだ。機械メーカーなどとの長年の技術開発で、三角のトレーと包装機を開発。特許を取得し、全国区の菓子に成長する礎になった。橋本さんは「時代を超えて変わらないおいしさと安心を届けるパッケージ開発に力を注いだ。ゆべしの伝統を守りながら、時代に合った進化をさせたい」と熱意を語る。

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 三万石の「ままどおる」が誕生した67年は、東京―青森間を結ぶ東北道が前年に着工。県内は「高速時代の夜明け」に向けた期待に活気づいていた。

 三万石取締役商品部長の池田真さん(42)は「新しいお菓子を創造する気概が『ままどおる』を生み出した原点」と、48年前の関係者に思いをはせた。

 46年、同市出身の故池田惣助さん・トシイさん夫妻が同社を創業。終戦の混乱期、海外から郡山に戻った池田さん夫妻は、造り酒屋の友人から譲り受けた酒かすで甘酒をつくり、これが人気を呼んで、創業の契機となった。

 良質の原材料で多彩な菓子を生み出し、51年発売の「銘菓三万石」も人気になって同社の基盤が固まった。高度成長を追い風に池田さん夫妻と、長男の現会長池田惣一さん(76)らは"和"と"洋"が調和した新しい菓子づくりに挑戦。60年に「エキソンパイ」、67年に「ままどおる」を発売し、「ミルクたっぷりママの味」のCMソングとともに、ファンは全国に広がった。
 真さんは「ミルクとバターを使った『ままどおる』は当時の新たな試み。夢と感動の世界を創造する菓子づくりの精神を受け継いでいきたい」と力を込める。


 薄皮饅頭 1852(嘉永5)年、旧奥州街道・郡山宿の薄皮茶屋で、初代の本名善兵衛があんをたっぷり入れた、皮の薄い饅頭を考案したのが始まり。戦前は白いまんじゅうだったが、戦後に保水性が良く、風味豊かな黒糖を入れたことで現在の茶色になった。

 家伝ゆべし 菅野文助が1860(万延元)年、三春の城下町で「菅野屋」を名乗り、ゆべしづくりを始めたのが原点。鶴が羽を広げたように見える独特の形は、三春ゆかりの坂上田村麻呂が2羽の丹頂鶴に育てられたという故事に由来している。

 ままどおる 1967(昭和42)年の発売。スペイン語で「お乳を飲む人」の意味。「ままどおる」、期間限定販売の「チョコままどおる」の2種類。CMソングは現在、アニメ映画「となりのトトロ」主題歌などで知られる歌手井上あずみさんが歌っている。