火災の情報即時共有 消防団参集アプリ「セーフ」導入、福島・須賀川

 
水利の位置を確認できることもアプリの利点の一つ。消防団員、市職員ともに水利の点検に余念がない=9月7日、須賀川市役所前

 スマートフォンなどで火災情報を共有する消防団参集アプリ「S.A.F.E(セーフ)」の導入が福島県内で広がっている。2018(平成30)年のアプリの完成以降、試験導入を含め県内9市町村が運用を始め、迅速な消火活動につなげている。今後は火災だけでなく、地震や台風にも応用される予定で、減災・防災に向けた役割に期待がかかる。

◆低予算で活動円滑に

 須賀川市は18年、他の自治体に先駆けてアプリを導入した。従来は消防本部から火災発生メールを受けた消防団幹部が部下に電話などで個別に連絡していたが、アプリ導入で効率化が図られた。

 出火情報が専用サーバーを経由し団員のスマホに一斉送信されるため、迅速な情報共有につながった。火災現場が地図で表示されて経路も分かるため、土地勘のない現場でもスムーズに向かえる。

 このほか、使用可能な水利の位置や団員の出動状況、消防車両の配置などの情報を把握することが可能になった。団員の一人は「担当外の火災現場でもどこに消火栓があるのかすぐ分かり、円滑に活動できる」と強調。「火災を想定しながら、平時でもアプリで水利を確認している」と日々の備えを語る。

 コスト面に優れる点もアプリ導入が広がる理由の一つだ。アプリを開発した同市の情報サービス業「情報整備局」によると、県内の大半の自治体で年間100万円以下でアプリを導入、運用できる。年間消防予算と比べ1%以下の自治体がほとんどだという。

 同社は3月、アプリを活用した取り組みで総務省の「ICT(情報通信技術)地域活性化大賞」の最高賞を受賞した。同社代表で元市消防団員の和田晃司さん(36)は「消防団での経験をアプリに反映し、広く消防団活動を支援したい」と力を込める。

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 アプリ開発のきっかけは、火災に気付かず現場に行けなかった消防団員時代の和田さんの苦い経験にあった。和田さんは「限られた団員の中で対応可能な人が確実に出動できる仕組みをつくりたかった」と思いを語る。

 昨年の東日本台風など近年は大規模な災害が全国で相次ぐ。現在のアプリは火災に特化した仕様だが、同社は本年度中にもほかの災害に対応する機能を新たに加える考えだ。

 東日本大震災で、福島県は地震や津波、火災などが同時に発生する複合災害を経験している。このため、同社は土砂崩れや河川の氾濫など現場の様子や危険箇所を写真などで共有できる仕組みの構築を目指す。

 和田さんは「団員や住民の安全確保にもつなげたい。そのためにも、ICTを利用した消防団活動がスタンダードになれば」と展望を語る。(福島民友新聞社須賀川支社・高野裕樹)

◆期待してます 水利事前確認できる、円谷哲司さん

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 「アプリの導入で、より早く消火活動に着手できるようになった」。アプリを活用している須賀川市消防団訓練部長の円谷哲司さん(52)は現場の実感を語る。

 円谷さんが特に感じているアプリの利点は、端末上で水利の位置や、実際に使用できるかどうかを確認できることだ。従来は住宅地図を頼りに探したり、見つかっても老朽化などで使えない場合があったという。

 アプリは地図上に消火栓の位置を表示できるほか、点検記録の登録も可能。出火現場と、使用可能な水利の位置、距離を事前に把握できるため、活動の戦略も立てやすくなるという。

 円谷さんはアプリの利点を説明する一方、それを使用する人の練度向上の必要性も指摘する。「火災現場は混乱しがち。端末を操作する余裕もなくなる。その中でも、情報を取りまとめられる人員が求められる」

◆期待してます あらゆる手段が必要鵜川良平さん

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 刻一刻と状況が変わる災害現場を想定し、円谷さんと同様に情報通信技術(ICT)を利用する人間の備えが必要と話すのは、同市市民安全課消防係長の鵜川良平さん(47)。「ICTだけに頼るのではなく、情報や技術に対する準備が大切になる。まずは人間ありき」と、人材育成や情報処理に特化した班の編成をはじめ、ICTをより効果的に活用するための方法を模索する。

 警戒や避難誘導など災害時にはさまざまな役割が消防団に求められる。鵜川さんは「効率的、安全な消防団活動と円滑な消防行政に向け、今後ICTは必須になる」と考えている。

 ICTの導入は、災害発生時の既存の情報伝達についても再考するきっかけとなったという。ICTを利用できなくなるような災害も想定されるためだ。鵜川さんはICTに加え、防災行政無線など住民にくまなく情報が行き届く態勢の構築、維持も重要と指摘する。「アナログも含め、あらゆる手段を残したい」。既存の手段に加え、ICTを「どう使いこなすか」。可能性を追求する考えだ。

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