高橋洋平氏寄稿(2)今を生きる 人生に仮の時間はない

 

 原発事故後に避難指示が出た地域の学校は、各方面に避難して仮設校舎などで教育活動を行ってきました。避難指示が徐々に解除されていく中で、2017(平成29)~18年ごろには、地元で再開する学校が増えてきました。県教育庁にも学校再開支援チームを設置し、教育内容の魅力化などを支援し、「こんな学校に通いたい」と思ってもらえるような新たな学校づくりを目指しました。

 例えば飯舘村の小学校は、18年3月まで避難先のプレハブ校舎でした。4月の村内の新校舎での再開に向けた準備を終え、「7年経(た)ってようやく本来の教育環境に戻れる」と関係者と喜び合っていたところ、仮設校舎の閉校式で卒業生から次の言葉がありました。

 「6年間通った自分たちにとっては、ここは『仮設』校舎なんかじゃない。」

 本当にそのとおりで、ハッとさせられました。避難状態から元の学校に戻すという発想は、極めて行政的で大人の発想だと思い知らされ、心から反省しました。学校再開を目標とする行政に携わる中で、私は過去(震災前の状態)と未来(新たに地元で再開する学校)にとらわれていましたが、子どもたちは今を生きていたのです。


 仮設校舎で過ごした時間は、仮の時間ではなく、教師や友人と切磋琢磨(せっさたくま)した本物の時間です。人生には仮の時間はないし、あってはならない。未来を考えるばかりではない、今この瞬間、この場所でいかに生きるかが大事だということを、子どもたちから教えてもらいました。


 たかはし・ようへい 宮城県登米市出身。東北大教育学部卒。2005年に文部科学省に入省。教育改革推進室専門官、私学助成課長補佐などを経て16年から本県に出向し、教育総務課長を3年、企画調整課長を2年務めた。21年4月に同省に復帰し、情報教育・外国語教育課長補佐を務める。