高橋洋平氏寄稿(5)分断社会を生きる流儀〈上〉 自分と異なる他者尊重

 

 原発事故の最大の被害のひとつは「分断」であると思われます。避難指示、賠償のあり方、差別や風評被害、放射線に関する考え方の違いなどによって、不幸にも家族や地域社会にさまざまな線引きがされました。

 震災から10年となる追悼復興祈念式の誓いの言葉で、ふたば未来学園高の政井優花さんは、次のように語りました。

「失ってしまったものや、つらさを比較することは、当事者を傷つけてしまう可能性があります」

「私たちは同情してほしいのではありません。経験したことを理解してもらい、二度と同じ間違いが起こらないことを望んでいるだけです」

 政井さんは分断を比較したり、同情したりするのではなく、たとえ分かり合えなかったとしても、相手を知る、相手の立場になって考えてみることを望んでいます。これは福島に限らず、現代の分断社会を生きていく流儀であるように思われます。

 このような流儀を身に付けるヒントは、演劇教育にあります。ふたば未来学園高の1年生は必修科目として、町役場や商店などを訪ね、復興に向けて地域が抱えている課題を調査し、演劇として表現します。直接の被災経験がない子が避難者を演じたり、政府職員や東京電力社員を演じたりすることもあります。

 子どもたちは演劇を通じて自分とは異なる他者を認識し、理解します。自己の存在を見つめ、思考します。他者と対話し、協調・協働します。論理だけでない身体表現も取り入れ、正解のない課題に取り組んでいくのです。Respect for the others、すなわち違いはあっても他者を尊重する心を培っていきます。

 たかはし・ようへい 宮城県登米市出身。東北大教育学部卒。2005年に文部科学省に入省。教育改革推進室専門官、私学助成課長補佐などを経て16年から本県に出向し、教育総務課長を3年、企画調整課長を2年務めた。21年4月に同省に復帰し、情報教育・外国語教育課長補佐を務める。