高橋洋平氏寄稿(6)分断社会を生きる流儀〈下〉 相手の立場で考え抜く

 

 前回は演劇教育を紹介しましたが、ふたば未来学園での学びは地域課題を探究して論文にまとめたり、グローバルな課題解決を福島の視点で提案したり、正解のない問いに「相手の立場になって」考え抜くことで一貫しています。

 初めての卒業式において、丹野純一校長(当時)は式辞の中で以下のように語りました。

「君たちは、他者との間において、傷を負いながらそれでも前を向く、その精神において共感し、ともに歩むことができるようになったのではないか。それは、『福島を生きる』者としての新しい倫理の形である」

 分断があることは事実でも、大事なのは分断の向こう側にいる他者の傷を知り、その視点を取り入れて、自分の視点を広げようとすること。そして安易な答えを出して、あきらめるのではなく、問い続ける誠実さこそ必要なのです。分断は裏を返せば多様性であり、分断があることを前提に、それぞれが豊かに生きる社会をいかに築けるか、考え続けなければなりません。

 これは福島に生きる者の倫理であるとともに、コロナ禍や貧困・格差などの分断にさらされる世界における新しい倫理でもあります。いわゆる自粛警察のように、自らが信じる正しさを振りかざして相手を非難するのではなく、相手の立場に立って、丁寧に問い続けなければならないのです。

 丹野校長の式辞は、ニーチェの思想に通じます。なぜ私ばかりがひどい目に遭うのかというルサンチマンを超えて、ついには生の肯定を目指す。ふたば未来学園では原子力災害で被災した地域の課題を探究する学びを通じて、分断社会を生きぬく哲学を学んでいます。(おわり)

 たかはし・ようへい 宮城県登米市出身。東北大教育学部卒。2005年に文部科学省に入省。教育改革推進室専門官、私学助成課長補佐などを経て16年から本県に出向し、教育総務課長を3年、企画調整課長を2年務めた。21年4月に同省に復帰し、情報教育・外国語教育課長補佐を務める。