【建物語】安積歴史博物館・郡山市 過去と今をつなぐ学舎

 
「明治・大正・昭和」をそれぞれ象徴する安積健児の像と洋風建築のたたずまいを当時そのままに伝える安積歴史博物館

 郡山市の安積高の敷地に、明治時代の面影が色濃く残る洋風建築の建物がある。旧県尋常中学校本館として国重要文化財に指定された安積歴史博物館だ。1889(明治22)年の創建から130年以上にわたり、変わらぬ姿で、同校で学ぶ「安積健児」の様子や郡山の発展の歴史を見守り続けてきた。

 彫られた落書き

 1973(昭和48)年まで校舎として使用された後、77年に国の重要文化財に指定。84年には安積高創立100周年を記念し「安積歴史博物館」として整備された。

 「桑野御殿」とも称された鹿鳴館風の華麗な洋風建築を象徴するのが、八角の柱が八角形に配置され、正面に突き出している玄関ポーチとバルコニー。ポーチをくぐり館内に足を踏み入れると、ひんやりとした空気に包まれた廊下が続く。同館の業務執行理事を務める橋本文典さん(68)に案内してもらい、当時を復元した教室に入る。木の机といす。座ると、自然と背筋が伸びた。安積高といえば数々の著名人も輩出している県内屈指の伝統校だ。きっと張り詰めた空気で生徒が真剣に授業に臨んでいたのだろう―。そう思いきや、よく見ると机には多くの落書きが。芸能人の名前や先生のあだ名などが彫られていた。「時代が変わっても人の考えることは同じ」と橋本さん。当時の生徒たちの息遣いを身近に感じられた気がした。

 館内には500人ほどが入る講堂も。大きなシャンデリアが豪華な雰囲気を醸し出している。ほかにも、当時のままのゆがんだ窓ガラスや現在はあまり見られない上げ下げ窓、当時の教科書の展示など見どころが多く、タイムスリップしたような気分を味わえる。

 今も安積高生の集会や部活などに使用され、生徒には身近な場所だ。卒業後に県外から友人を連れて来たり、成人式や結婚式の前撮り撮影に使うなど、卒業生にとっても思い出深い存在のようだ。「目には見えない心を打つものがある空間だと思う。残っているのには理由がある」。同校OBでもある橋本さんが思いを語る。

 長い歴史の中で転機となったのは、2011(平成23)年の東日本大震災。内側のしっくい壁が崩落するなど大きな被害を受けた。当時の同館理事で復旧に携わった同校OBの村田英男さん(76)は「かつて取り壊しの話が持ち上がったこともあったが、先人たちがなんとか守り継いできた建物。とにかく再建に向けて無我夢中だった」と振り返る。同窓会を中心に約3千万円の寄付が集まったほか、壁の運び出しなどの片付けにOBが次々と手伝いに訪れるなど、卒業生の愛校心が復旧を支えた。

 身近な文化財に

 約2年7カ月の休館を経て、14年9月に再オープン。それを機に、なるべく多くの人に訪れてほしいと、より身近な「利用できる文化財」としてかじを切った。メディアの露出やコンサート、展示会などのイベントを増やしたほか、ロケ地として映画やドラマの撮影に積極的に協力。明治時代を舞台にした作品はもちろん、ホラー映画やアイドルのミュージックビデオなどかなり幅広い。最近は人気漫画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」のコスプレをした人も撮影に訪れるなど、注目が集まり出しているという。

 「歴史は切り離されたものではない。この建物を通して、歴史がつながっているということを感じてほしい」。橋本さんはそう願う。「安積高生の宝」から「地域の宝」へ。伝統の校舎にいま、新しい風が吹き込んでいる。(丸山詩織)

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 安積歴史博物館 バルコニーが象徴的な洋風建築の木造2階建てで、延べ床面積は約2270平方メートル。入館料は一般300円、高校生以上200円、小中学生100円。障害者手帳を持っている人は無料。開館時間は午前10時~午後5時。月曜休館。2月末までは土曜、日曜、祝日のみ開館。住所は郡山市開成5の25の63。問い合わせは同博物館(電話024・938・0778)へ。

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