【建物語】アクアマリンふくしま・いわき市 心が躍る自然の宝箱

 
ふ頭にきらりと光るアクアマリンふくしま。目を引く全館ガラス張りが特徴だ

 重要港湾・小名浜港があり、多くのトラックが行き来するいわき市小名浜。港沿いには化学薬品や銅製品などを扱う工場が並び、工業港としての雰囲気が色濃く漂う。そんな風景の中にあって、ひときわきらりと光る、水色の宝石のような建物が水族館「アクアマリンふくしま」だ。ここで飼育、展示されている生き物は、自然から抜け出してきたかのように本能そのままの行動を見せてくれる。

 小名浜港は戦後、重化学工業を中心に臨海工業地帯の産業基盤となる港湾として発展した。堅苦しいイメージを拭い去るきっかけとなったのは1978(昭和53)年。県の長期計画に本県の海を活用した海洋性レクリエーションゾーンの整備が提起された。94年度には小名浜港2号ふ頭への施設整備が決まり、2000年7月にアクアマリンがオープンした。

全館ガラス張り

 「これまでの水族館は太陽光や本物の植物を嫌っていたが、ここは違う。少しでも自然界に近づけている」。アクアマリン職員の津崎順さん(64)は洗練された全館ガラス張り、という新たな発想で造られた水族館の特徴を語る。

 津崎さんは他の水族館でも勤務した経験を生かし、アクアマリンでは開館前から展示の目玉の一つとなる繁殖の難しいサンマの飼育実験などに携わってきた。「日の光でガラスに藻類が生えたり、植物の落ち葉で水槽が汚れたりと管理に手間が掛かるが、本物だからこそ見せられる四季がある」

 自然光の降り注ぐ館内に入ると心地よい明るさに囲まれる。阿武隈の渓流や、熱帯アジアのマングローブ帯、黒潮と親潮が交わる本県沖の特徴を表現した「潮目の海」など多様な環境が再現されている。「太陽からの光を多く取り入れたことで自然でしか出せない生物の姿が出てくる」。天候も来館者を飽きさせない生物展示を可能にする要因となっているという。

 津崎さんら職員が手塩にかけて育ててきたアクアマリンは10年前の東日本大震災で大きな被害を受けた。ふ頭にある施設は津波で1階が浸水したが、建物外観のガラスへの影響は少なかった。だが、「潮目の海」を表現する大水槽のガラスが地震の影響で損傷したり、電気が復旧せず水の循環や温度を維持できなくなったりしたため、展示生物約20万点のうち9割が死滅、流失した。

魅力増して復活

 「トラウマになるほどショックだった」と津崎さん。しかし、翌日以降は「必ず再開を」との思いを胸に死んだ魚を回収するなどして復旧への歩みを進めた。再開は約4カ月後の開館記念日の7月15日と決まった。水が入っていないからこそできる水槽内の改善など、震災前よりも生き物に親しんでもらえる施設に仕上げた。「来館者のいない時期は音のない世界のようだった。水族館はお客さんがいてこそだ」。現在は植物の管理をしながら、アクアマリンの最高の姿を来館者に提供し続けている。

 アクアマリンの魅力は建物内だけにとどまらない。敷地内には、人と自然が調和した縄文時代の風景を再現した施設「わくわく里山・縄文の里」などさまざまな仕掛けがある。水族館を訪れたつもりが、いつの間にか自分が自然の中に足を踏み入れたような感覚に陥る。

 「山、川、海の好循環や、水辺の自然を再現している。水の博物館だ」と施設を表現する安部義孝館長(80)。子どもたちの「冒険心」をくすぐり続けたいと思っている。(矢島琢也)

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アクアマリンふくしま 約2400枚のガラスで覆われたデザインが特徴的。環境水族館として「海を通して『人と地球の未来』を考える」を理念とする。開館時間は午前9時~午後5時(21日~11月30日は同5時30分)。入館料一般・大学生1850円、高校生以下900円。未就学児無料。住所はいわき市小名浜字辰巳町50。問い合わせは同館(電話0246・73・2525)へ。

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