【建物語】国田屋醸造・二本松市 城下町に輝く赤格子

 
赤いベンガラ格子が店の「顔」の国田屋醸造の店舗。歴史を感じさせる

 二本松藩丹羽家の城下町・二本松市。霞ケ城にほど近い同市竹田のひっそりとした通りに、重厚な赤い格子が目を引く商家が立つ。味噌(みそ)、醤油(しょうゆ)を醸造している「国田屋醸造」だ。

 江戸時代後期に建てられた店舗は木造2階建て。正面の格子に顔料の一つ「ベンガラ」が塗られ、真っ赤な外観が特徴だ。自慢の味噌はコクとまろやかさがあり、醤油も地域から愛されている。「醸造王国ふくしま」を支える老舗の一つだ。

県道できて変化

 「残念ながら詳しい由緒は残っていませんが、江戸後期の創業と伝わっています」と10代目の大松佳子さん(63)。大松さんが幼少のころから、すでに外観はベンガラ格子だった。「いつから定着したか分かりませんが、定期的に塗り直しています。店の顔ですからね」と格子を見つめる。存在感ある店を前にして、ふと気になった。目立つ外観なのに、なぜ店舗の正面は、車や人の往来が少ない通りの方を向いているのか。すぐ裏手には交通量の多い県道(通称・塩沢街道)があり、断然、商売するには逆向きの方が良い。

 「この県道は昭和30年代に新しくできたんです。それまで正面の道が幹線道路で往来はにぎやかだったんですよ」と大松さん。続けて「江戸時代、(県道のある)うちの裏手はお城を守る水堀があったので」と、興味を引く答えが。

 聞けば、二本松藩初代藩主の丹羽光重が白河から二本松に国替えとなった約370年前、城下町の大整備を行ったことに起因する。この時光重は、同店の裏辺りに霞ケ城を守る「竹田門」を置き、その東側に水堀の「御堀」を整備した。現在、名残はみられないが、今も周辺を「御堀端(おほりばた)」と呼ぶ住民は多いという。

 市街地は江戸時代の道筋がほぼそのままで、城下町特有の枡形(ますがた)の痕跡も残る。ただ、同店周辺の場合、店の裏側に新しく道を通した方がスムーズな交通になったため、明治以降に埋め立てられた水堀の上に県道が造られ、交通量が変わったのだった。「新しい道を造る際、所有する土地を寄付したのですが、結果として旧道は静かになってしまいました。でも旧道が拡幅されなかったので、ベンガラ格子の店が残ったとも考えられるんです」。大松さんが苦笑いを浮かべながら教えてくれた。

震災に負けずに

 店の敷地には明治時代に建てられた蔵が3棟並ぶ。うち一つは2012年、「蔵カフェ 千の花」として生まれ変わった。自社製品を活用しつつ、地域おこしにもつながる蔵カフェができないか構想していた中、東日本大震災が起きた。蔵の修繕が必要になり、「どうせなら」と一念発起しオープンさせた。

 2階のテーブル席に腰掛けると、落ち着いた雰囲気で居心地が良い。コーヒーや紅茶、甘酒はもちろん、郷土料理や発酵食品を使った料理、醸造した味噌・醤油を生かした料理が味わえる。オススメは同市の郷土料理「ざくざく」。さいの目に切った根菜やキノコを入れた醤油仕立ての汁物だ。

 オープン以来、地域住民や観光客が集う場となった。「多くの方々が楽しい時間を過ごすのを眺めるのが好き。味噌蔵に新しい息吹を吹き込んで良かった」と笑顔をみせる大松さん。コロナ禍の影響で来店者は減っているが、「これからも二本松で愛されてきた味噌・醤油の味をしっかりと守っていきたい」と前向きだ。(国分利也)

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 国田屋醸造 手づくり味噌(みそ)、濃い口醤油(しょうゆ)、めんつゆ「松風庵」、「三五八漬の素」、甘酒など製造・販売。「蔵カフェ 千の花」では自家製の味噌・醤油を使った料理や郷土料理「ざくざく」のランチセットなどを提供。住所は二本松市竹田2の30。千の花の営業は午前11時~午後2時、午後3時~同6時。定休日毎週月曜。電話番号は国田屋醸造0243・22・0108、千の花0243・24・7018。

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。