【建物語】朝日座・南相馬市 笑顔の記憶と一緒に

 
閉館した後も多くの人から愛されている朝日座。今も大正時代の面影が残る=南相馬市

 南相馬市原町区の中心街の路地に、ひっそりとたたずむ映画館がある。現在、日常的な上映はしていないが、昔ながらの雰囲気が残り今も映画ファンや住民らを魅了する存在だ。

大正時代の面影

 朝日座の誕生は大正時代にさかのぼる。地元の有志が組合をつくって1923(大正12)年、原町区の中心街に芝居小屋を兼ねた施設「旭座」を開業した。当時は舞台や芝居を中心に行われていた。映画全盛期だった52年には、名称を「朝日座」と変え、常設の映画館になると、大勢の観客でにぎわいを見せた。しかし、テレビやビデオの普及によって、映画業界全体で観客の減少が続くと、89年には仙台市といわき市の間に残る最後の映画館になった。そして91年9月を最後に、惜しまれながら約70年の歴史に幕を下ろした。

 そうした中で、地域に愛されてきた映画館を後世に語り継ごうと、地元有志でつくる団体「朝日座を楽しむ会」が2008年に発足。朝日座を管理し、上映イベントなどを行ってきた。

 ちょうど大スクリーンが恋しくなっていたところだ。「映画館の非日常の雰囲気だけでも味わいたい」。そんな思いで現地を訪ねた。朝日座はJR原ノ町駅から約15分ほど歩いた場所にある。周りの建物に身を潜めているようだが、ベージュ色の外壁に英語で記された「ASAHIZA」の赤い文字がひときわ目を引く。外観の雰囲気からは大正時代の面影も感じられ、敷地に一歩足を踏み入れると、タイムスリップしたような感覚に陥る。「朝日座は当時のデートコースの定番だったし、集いの場だったのよ。ここのことを語るときはみんな笑顔になるの」。楽しむ会の会長を務める小畑瓊子(けいこ)さん(73)はそう笑顔で語り、中を案内してくれた。

 施設内には過去に朝日座で上映された作品の貴重なポスターが飾られ、まるで今でも上映しているかのようだ。当時の館主が上映終了後、一枚一枚丁寧にコピーを取り、ポスターを保存していたのだという。上映室は少しひんやりとした空気が漂い、かつての列車の座席を思わせる赤と青生地の椅子がなんとも味わい深い。スクリーンは木綿製。全盛期には約200席ある椅子が全て埋まり、立ち見客もいたほど。椅子に座り、目を閉じて当時のにぎわいに思いを巡らせた。

県内外にファン

 元々芝居などのために造られたこともあり、舞台裏には役者たちが化粧などをしていた楽屋のほか当時の職員が休憩していた部屋、小道具などが残され、時が止まったままのようだ。

 取材中に外に目をやると、スマートフォンで朝日座を撮影する人がいた。昨年、朝日座を舞台にしたテレビドラマが放送された影響もあって、見学に訪れる人も増えているという。

 楽しむ会は老朽化した建物の保存と利活用に向けた活動を続けている。屋根の修理や備品の用意などは県内外のファンの支援を受けて進めている。こうした活動が実を結び、14年には国の有形文化財に登録された。

 「朝日座はいつの時代もいろんな人にかわいがられてきた。ここ(朝日座)で映画を見ていた人たちやファンの支えがあってここまでこられた」と小畑さん。不思議な魅力を放ち、時代を超えて愛される映画館は今もなお多くの人を引き寄せる。(斎藤駿)

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 朝日座 芝居小屋・活動写真小屋として1923(大正12)年に開館した。国登録有形文化財。木造2階建て。不定期で朝日座を楽しむ会の集会が開かれている。普段は入場できないが、希望があれば、見学や上映会、各種イベント開催なども受け付けている。住所は南相馬市原町区大町1の120。

朝日座の地図

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で22日「朝日座」放送予定

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。