【建物語】倉美館・棚倉町 古代と未来、美の融合

 
ギリシャ様式の列柱廊が目を引く倉美館。かつては階段沿いに水が流れる仕組みもあった=棚倉町

 城下町の名残を残し、歴史ある街並みが広がる棚倉町。そんな町を見下ろす高台に、町文化センター「倉美館(くらびかん)」はある。楕円(だえん)形の大ホールや等間隔に柱が並ぶ古代ギリシャ様式の「列柱廊」など目を引く造りは、まるで古代と未来が合わさったかのような不思議な雰囲気を漂わせている。

 1995(平成7)年に「文化活動もできる公民館」として誕生した。楕円形の大ホールは当時としては珍しかった。約600席の収容を誇り、オーケストラや有名歌手のコンサート、文化講演、演劇など、さまざまなイベントに使用されてきた。町は、同じ北緯37度に位置することからギリシャの都市スパルタ市と友好都市になっている。列柱廊があるのもそのためだ。開館当時は階段沿いを水が流れる仕組みも設けられ、来場者を楽しませていた。

 「町のシンボルとして、将来にわたって使ってもらえるような造りを目指した」。町職員として建設事業に携わっていた塩田吉雄さん(65)は当時の思いを振り返る。近くに宿泊施設「ルネサンス棚倉」があることもあり、施設が完成して以降、県内外から多くの利用者が訪れた。関東圏から訪れた大学生が大ホールを使ってオリエンテーションを行っていた時期もあったという。

音の響き均一に

 大ホールは、どの席に座っていてもオーケストラ演奏などの音の響きに差が出ないようにするため、ガラス製の反射板の配置が工夫されているという。完成記念公演では、いわき市出身の指揮者小林研一郎氏が指揮するハンガリー国立フィルハーモニー管弦楽団が演奏を披露するなど、豪華なセレモニーが行われた。

 周辺をウオーキングしていた町内の女性(65)に話を聞くと、開館当初に大物歌手や劇団などを招いて行われていた公演が今でも思い出深い。「新型コロナウイルスの影響で大規模イベントが開催しにくい状況だが、またにぎわいが戻ってほしい」

 施設の全体の設計を担当したのは、東京都庁舎設計で中心的役割を果たしたことでも知られる町出身の建築家、故古市徹雄氏。「ふるさとの一大事業に携わり、力を入れていた分、(古市氏も)相当のプレッシャーを感じていたのではないか」。古市氏に師事し当時設計にも関わっていた、現アトリエSaDo(岡山県)代表の佐渡基宏さん(54)は当時を思い出す。「傾斜や高低差のある場所なので配置に悩んだが、見せ方の一つとして階段を使うなど工夫した」と佐渡さん。ホールは観客にゆったりと音楽などを楽しんでもらおうと、席の幅にゆとりを持たせ、奥行きのある舞台になっている。

生涯学習に活用

 佐渡さんは建設当時、約1年間町に住み、町との折衝役を務めた。「現場の建設員と一緒にご飯を食べたりしたことが思い出される。町職員とは今でも連絡を取り合う仲だ。深夜まで仕事をする時期もあって大変だったが、振り返れば良い経験だ」

 施設は大ホール棟と生涯学習棟に分かれており、調理室や陶芸室、プラネタリウムなども併設されている。生涯学習の場としても活用され、住民の日常になくてはならない身近な存在でもある。佐渡さんは「多様な使い方ができる施設。これからもさまざまな世代が活用しコミュニケーションの生まれる場になってほしい」と期待する。(横田惇弥)

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 倉美館 町の文化活動の裾野を広げようと公民館機能のある文化センターとして1995(平成7)年に開館した。約600席ある音楽ホールがあり、プラネタリウムも併設されている。さまざまな音楽や文化講演などの開催場所としてだけでなく、吹奏楽、合唱などの活動拠点としての役割を果たしている。住所は棚倉町関口字一本松58。問い合わせは同館(電話0247・33・0111)へ。

倉美館の地図

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画 

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。