【建物語】いわきワイナリー・いわき市 地元愛込めて夢熟成

 
ブドウ畑から眺めた「いわきワイナリー」のガーデンテラス&ショップ。地形を生かし、環境に溶け込むような造りが特徴だ

 「なんて素晴らしい景観」。いわき市好間町の丘陵にある耕作放棄地のやぶをかき分けると、雄大な山々や太平洋を望む絶景が広がった。「ここをワイン製造の拠点にしたい」。同市で高品質のワイン造りに挑む「いわきワイナリー」のマネジャー四家麻未さん(32)はその光景に奮い立った。現在のいわきワイナリーの販売施設とブドウ畑が立地する場所に出合った瞬間だ。

 障害者の就労支援に取り組む認定NPO法人みどりの杜(もり)福祉会いわきワイナリー(同市)が運営している。四家さんの父である今野隆理事長(64)が、ワイン醸造を通して障害者支援につなげようと広野町でブドウ栽培に乗り出し、2009(平成21)年にNPOを設立したのが始まりだ。

障害者らが活躍

 ただ、同市初となるワイン醸造所誕生の道は険しかった。

 ブドウ栽培に力を注いでいた11年、東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が発生した。スタッフは避難し、断水で手入れができず広野町での栽培を断念した。原発事故に伴う農作物への影響はないと分かり、翌12年からいわき市で再びブドウ栽培を始めた。13年に収穫したブドウを別のワイナリーに持ち込んで醸造を委託し、初のワインを完成させた。

 同時にスタッフらは山梨県・勝沼のワイナリーで醸造技術を磨いた。15年に果実酒製造免許を取得すると、いわき市に整備したワイン醸造所で醸造を開始。新たに販売施設やブドウ畑が必要になり、たどり着いたのが冒頭の耕作放棄地。所有者の市から土地を借り、18年にいわきワイナリーの販売施設「ガーデンテラス&ショップ」を開所させた。

 ここでは、障害者がブドウの手入れや摘み取りなどの農作業、ワイン醸造や瓶詰め、ラベル貼りなどに慣れた手つきで励んでいる。四家さんは「思い返せば苦労の連続で、あっという間に時間が過ぎた」と振り返り「それでも続けてこられたのは地域の人々に支えられてきたから」としみじみ語る。

オールいわき産

 ワインもさることながら、周辺環境に溶け込んで建てられた販売施設が素晴らしい。1階はゆったりとくつろぎながらワインが楽しめ、半地下にはワインセラーがある。ワインと同じようにオールいわき産の材木を建材や家具、什器(じゅうき)に使うこだわりようだ。建物は日本建築士事務所協会連合会主催の昨年度の全国コンクールで奨励賞を受賞している。

 設計は同市の建築事務所「ハコプラスデザイン」代表の新妻邦仁さん(48)と妻の多恵子さん(45)。四家さんとともに県外のワイナリーを視察し、場所選定にも立ち会うなど全面的に協力した。「いわきの風土を最大限に生かした建築を目指した」と邦仁さん。多恵子さんも「生産者が誇りを持ち、訪れる人に感動を与える空間にしたかった」と狙いを語る。

 販売施設には多くの個人や団体客が訪れ、イベントや醸造体験などでにぎわってきた。ところが、昨年からは新型コロナウイルス感染症の影響で催しができず、売り上げも減少している。苦境の中でも「いわきを愛しているからこそ生み出せる味を大切に、障害者支援と地域活性化に貢献していく。もっと腕を磨いて良いワインを造らなくちゃ」と四家さんは笑う。先の見えないコロナ禍にあっても、地域に根ざしたワイナリーで夢を「熟成」しようと挑み続けている。(国分利也)

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 いわきワイナリー 障害者の就労支援に取り組む、みどりの杜福祉会いわきワイナリー(いわき市)が運営。ブドウ栽培や摘み取り、醸造、瓶詰め、ラベル貼りまで一貫生産で「メード・イン・いわき」のワイン約30種類を醸造する。ワインの購入、有料試飲などができる「ガーデンテラス&ショップ」の住所はいわき市好間町中好間字半貫沢34の72。電話は0246・36・0008。営業時間は午前11時~午後4時。不定休。

いわきワイナリーの地図

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。