【建物語】相馬市LVMH子どもアート・メゾン・相馬市 とっておきの隠れ家

 
楕円形が特徴の「LVMH子どもアート・メゾン」。相馬市の復興と発展を担う子どもたちの活動の場として建設された

 相馬市のJR相馬駅を出て、商店や飲食店、アパートなどが交じり合う住宅街をしばらく歩くと、目の前に非日常的な建築物が突然現れる。そのドーナツ状の建物は、高級ブランド「ルイ・ヴィトン」を展開するLVMHグループが、東日本大震災で傷ついた相馬の子どもたちに贈ったプレゼントだ。建物を設計したのは坂茂さん(63)。建築界のノーベル賞といわれる米プリツカー賞を2014(平成26)年に受賞するなど、世界的に活躍する建築家だ。

優しく包み込む

 「革命的な建物だと思えた。何しろ、あんな建物はこの近くでは見かけないからね」。アート・メゾンに事務所を構え、震災で心理的ショックを受けた子どもたちの支援に取り組むNPO法人相馬フォロアーチームの理事長羽根田万通(かずみち)さん(77)は建物の第一印象をそう振り返る。

 敷地の東側にはJR常磐線の線路が走り、南側の高架橋では自動車が絶え間なく行き交う。そんな場所に立つアート・メゾンは、騒がしい世界から子どもたちをかくまう「シェルター」のようにも思える。エントランスホールの向こうには、日常から隔てられた空間が広がっていた。楕円(だえん)形になったドーナツ状の建物を時計回りに巡ってみる。まず見えるのは、絵本など約2500冊をそろえた図書スペースだ。天井まで届きそうな本棚に遮られ、外界は全く見えないが、不思議と圧迫感を感じることはない。芝生の緑が鮮やかな中庭と建物の内部は、はね上げ式の大きなガラス戸でつながれており、外界と連続しているように感じられるためだ。

 中庭を眺めながら進むと、屋根が不規則に波打っているのが分かる。ゆがんだ造形は建物に温かみを与えていた。キッチンが付いた多目的研修室に入ると、ガラス壁の向こうに高架橋が見え、現実に引き戻される。それでも、ガラス壁の内側には植物が茂る棚があり、外の景色をある程度遮断している。緑のカーテンで外の世界から守られているようだ。

紙管で作った柱

 アート・メゾンを訪れると、誰もが建築の素材に驚くという。天井を支える柱は、紙の筒「紙管」で作られている。「建築素材に紙を使おうと思うのがすごい。普通の人間には、発想できないよ」と羽根田さん。図書スペースには、背もたれが紙管で作られた椅子もある。「座ってみると、悪くないんだ。不安感なんて全くなかった」と羽根田さんは続けた。ここでは、子どもたちが本棚から取り出した本を楽しむ様子が見られる。

 紙管は、坂さんの建築作品を特徴付ける素材として知られる。坂さんが紙を使い出したのは、1986年。予算が限られていたため、展覧会の作品に木材の代わりに、紙管を使ったのだという。その後、研究を重ね、95年には恒久建築「紙の家」を完成させる。そして坂さんは、国内外の被災地で紙管を使った仮設住宅などを手掛けてきた。本県では震災後に避難所となった郡山市のビッグパレットふくしまや福島市のあづま総合体育館に、紙管と布を使った簡易間仕切りを提供して、最低限のプライバシーが確保できるよう手を尽くした。

 震災から10年余りが過ぎ、避難所にあった坂さんの間仕切りはもう目にすることはない。だが、アート・メゾンには弱者に支援を差し伸べ続ける建築家の思いがあふれ、今も優しく子どもたちを迎え入れている。(丹治隆宏)

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 相馬市LVMH子どもアート・メゾン LVMHモエヘネシー・ルイ・ヴィトン・グループが震災復興支援として資金提供して整備した。設計は、世界的建築家として知られる坂茂さんが手掛けた。収蔵する絵本を自由に読めるほか、多目的研修室を無料で貸し出している。開館時間は午前9時~午後6時。休館日は12月29日~1月3日。問い合わせは同施設(電話0244・26・7415)へ。

相馬市LVMH子どもアート・メゾンの地図

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。