【建物語】星の村天文台・田村市 夢つなぐバベルの塔

 
豊かな自然に囲まれた標高640メートルに立つ「星の村天文台」。外観はバベルの塔をイメージしている

 田村市滝根町の仙台平へと続くヘアピンカーブを抜けると、円すい状の建物が見えてくる。1991(平成3)年にオープンし、今年30周年を迎えた「星の村天文台」だ。県内で最も歴史ある天文台で周囲を見晴らす高台にあるため、星空観察には絶好の場所。多くの天文ファンや観光客が集い、宇宙の神秘に思いを巡らせている。
 天文台の頂上には、ドーム型の部屋がある。天井部分は開閉式になっており、県内最大の口径65センチ反射望遠鏡「絆 KIZUNA」で星空や太陽を観察できる。壁には、宇宙飛行士の秋山豊寛さんや天文家の関勉さんの直筆サインが記されていて、天文関係者にも愛されている施設の雰囲気が伝わってくる。

二つの宇宙計画

 建物は、旧約聖書に登場する「バベルの塔」がモチーフになっているという。同天文台長の大野裕明さん(73)は「天に向かって、お城を造るイメージ。空に近い方が、星もきれいに見えるだろうという発想だった」と振り返る。バベルの塔は「空想的で実現不可能な計画」の比喩として用いられることもあるが、関係者は本気だった。当時、旧滝根町(現田村市)には「二つの宇宙をつくる」構想があったからだ。

 それは「天地人計画」と呼ばれた。「天に星、地に鍾乳洞、人に愛」をテーマに、「二つの宇宙がある町」として観光PRする戦略だった。地底の宇宙に見立てた鍾乳洞の「あぶくま洞」はすでにあった。あとは天文台を建設すれば、計画成功への全てのピースが埋まる―ということだった。

謎のピラミッド 

 天文台設置の候補地は、いくつかあったが、最終的にはあぶくま洞の近くに落ち着いた。両施設を歩道橋「天地人橋」でつなげ、鍾乳洞を訪れた人たちが天文台にも足を運びやすいようにした。「天体観測を観光の一環として捉えてもらえるようになり、天文が身近になった」と大野さん。橋は円形になっており、下から夜空を見上げると、輪っかの中で星がまたたく幻想的な光景が広がることから、人気観光スポットの一つになっている。

 92年には、天文台の隣にプラネタリウムが開館した。だが実は、大野さんはこの建設について「何も知らなかった。当時の町長が、私に秘密で進めたのではないか」と笑う。ピラミッドのような形の建物を造っているようなので、何かなと思っていると、中身はプラネタリウムだった―というわけだ。大野さんは「(ピラミッドで有名な)エジプトの星空の話を町長にしたことがあった。その影響かもしれない」と推測する。大野さんは「実際の星を見てほしい」との考えだったので、当初プラネタリウム建設には反対だった。ただ、徐々に「天候に左右されないので、曇りや雨の日には助かる」と思うようになったという。

 皆既日食や流星群の天体ショー観測会を開くなど、天文ファンに親しまれている天文台だが、東日本大震災では大望遠鏡が損傷した。現在の反射望遠鏡「絆」は、その際に新調したものだ。大野さんは「地球で震災が起きても、星空は変わらない。みんなで星を見れば喜びは倍増するし、苦しいことも忘れる」と、前向きなメッセージを送る。

 いつも宇宙を身近な存在にしてくれる星の村天文台。バベルの塔とは違い、ここで生まれる人と星をつなぐ物語はこれからも続くのだろう。(富山和明)

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 星の村天文台 口径65センチ反射望遠鏡の見学やプラネタリウムの視聴、化石発掘体験などができる。開館時間は4~9月が午前10時~午後5時、10~3月が午前10時~午後4時。休館は4~10月が毎週火曜日、11~3月が毎週火曜と水曜日。月食や流星など特別な天体現象がある場合などに夜間公開している。田村市滝根町神俣字糠塚60の1。問い合わせは同施設(電話0247・78・3638)へ。

星の村天文台

NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。