【建物語】Lamp Cafe・白河市 新しい光をともして

 
アンティークなテーブルや革張りのソファなどが並び、柔らかな光が落ち着いた空間を演出する店内(矢内靖史撮影)

より多くの人に

 日本最古の公園とされる白河市の南湖公園内にある人気カフェ「Lamp Cafe(ランプカフェ)」。郡役所や博物館として使われてきた建物は、より多くの人に見てもらおうと、2010(平成22)年10月にカフェとして生まれ変わった。レトロな雰囲気が漂うスポットとして多くの人に愛されている。

 建物は1883(明治16)年に西白河郡役所として同市中心部の道場小路付近に建てられた。郡役所が廃止された後も、県の事務所として使われた。1971(昭和46)年に取り壊しが決定するが、市民らの保存運動が起きる。それにより、郡役所のうち、郡会議事堂を除くほぼ全ての建物が南湖公園に移築され、同市の藤田教育振興会の手によって明治記念館として生まれ変わった。建物そのものに加え、白河焼など、地元の歴史、文化財を展示する博物館として使用されていたが、年々客足は遠のいていた。

 そんな中、明治記念館の存続に手を挙げたのがランプカフェオーナーの薄井克彦さんだ。同市出身の薄井さんの自宅は記念館のそば。子どものころから見学で訪れるなど、いつも身近にこの建物があった。そんな環境から「歴史があるのに、人に見てもらえないともったいない」と感じていたという。そこで、館内でのカフェの運営を提案。同振興会と手を組み、建物内にあったショーケースを移動させ、窓や床を改修し、カフェとして生まれ変わらせた。

 木造1部2階建ての建物は、白を基調とした外壁で、板を上下に少しずつ重ね合わせた「下見板張り」。入り口では、バルコニーまで延びる木製の丸い柱や、美しいステンドグラスが客を出迎える。店内に入ると、アンティークなテーブルや革張りのソファなどが並び、タイムスリップしたような気分を味わえる。天井のシャンデリアや壁に掛けられたライトとその優しい光が落ち着いた空間をつくり上げている。

 現在は、上田篤さんが店長として歴史ある建物を守っている。店の一番人気は、南湖をイメージしてブレンドしたというコーヒー「ランプ・ブレンド」。飲み口はさわやかで、まろやかな味わいが口に広がる。

憩いの場守った

 多くの利用客がくつろぐ店内。「南湖に観光に来たら、おしゃれなカフェを見つけたので入ってみた。レトロな雰囲気で、非日常感が味わえる」と、いわき市から訪れた鈴木南帆(なほ)さん(23)。「古い家具を生かしていて落ち着く。ステンドグラス越しに届く日の光もとてもきれい」と笑顔を見せた。

 ランプカフェは新型コロナウイルス感染症が流行し始めた2020年、存続の危機に陥った。コロナ感染拡大の影響で利用客は減り、売り上げが落ち込んだ。苦しい状況の中、「歴史ある建物を後世に残したい」と、再び薄井さんは立ち上がった。応援してくれる人たちから資金を募る「クラウドファンディング」を始めると、約1カ月間で164人から約130万円の協力が集まり、この危機を乗り越えた。

 かつて、身分を問わず市民の憩いの場にしようと、白河藩主の松平定信がつくった南湖公園。そこには今も市民が集うランプカフェがある。幾度の危機に見舞われながら、さまざまな人々が守り抜いた思いの詰まった建物だった。(伊藤大樹)

LampCafeの地図

 Lamp Cafe(ランプカフェ) 木造1部2階建てで、南湖公園内にある。人気の「ランプ・ブレンド」といったコーヒーのほか、紅茶やハーブティーなどが味わえる。トレーに載せられた数種類のケーキから好きなケーキを選ぶ販売方法が特徴的。住所は白河市五郎窪38の1。営業時間は正午~午後6時。水曜定休。問い合わせは同店(電話0248・29・8170)へ。

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NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。