【建物語】いわきマリンタワー・いわき市 気軽に空中散歩気分

 
青と白を基調としたスタイリッシュなタワーは、オープンから35年たった今も古さを感じさせない(矢内靖史撮影)

 いわき市の小名浜港東側にある三崎公園に、遠くから一目で分かる青と白のツートンカラーが映えるスタイリッシュなタワーがそびえ立つ。市制施行20周年などを記念して造られた「いわきマリンタワー」。1986(昭和61)年のオープンだが、その外観は全く古さを感じさせない。海抜106メートルの展望台からは小名浜港などを一望でき、気軽に"空中散歩"の気分を味わえる。

 「当時はこんなに斬新な建物は珍しかった」。タワーの建設に携わった元市職員の松崎一則さん(67)は懐かしそうに思い出を教えてくれた。市は82年ごろから、市制施行20周年に合わせた事業を検討していた。当時は全国的に公園を整備するブームの真っただ中。いわきを代表する三崎公園に展望台を建ててみようという意見から計画がスタートしたという。

 タワーのコンセプト「海と空と緑の対話」に合うデザインは建設会社のコンペで決まった。円柱のようなよくあるデザイン案が多く出される中、展望台らしからぬ案が目に留まった。「形がスリムで格好いい。くびれがありスタイル抜群だ」。松崎さんら職員には、この案が印象深かった。

スタイリッシュ

 高い建物を造る際に気を付けなければならない"高さ60メートルの壁"があった。航空法では、航空機の航行の安全を確保するために地表や水面から高さ60メートルを超える物件には、点滅する「航空障害灯」の設置や、「昼間障害標識」として赤と白の配色が義務付けられていた。「赤と白では展望台として興ざめしてしまう」として、規制を1センチ下回る高さ59.99メートルで建設されることとなったという。

 83年11月に工事が始まり、予定通り市制施行20周年前年の85年8月1日に仮オープンを果たした。「約700枚のガラスは一枚一枚大きさが違うなど多くの人が苦労したと思う。よく完成した」。松崎さんはしみじみと語る。

 タワーは上空から見ると六角形の構造になっている。三つの辺が地上から上までガラス張りで、エレベーターで上る際などに景色が見え、展望台に到着するまでのワクワク感が醍醐味(だいごみ)だ。快晴時、屋上のスカイデッキに出ると、空の青さに溶け込んでしまうかのような抜群の眺望が広がる。

シンボル的存在

 今ではアクアマリンふくしまや、いわき・ら・ら・ミュウなどが営業し観光地としてのイメージが強い小名浜だが、タワーができる前は工業地帯としての役割が大きかった。タワーの近くで割烹(かっぽう)旅館「天地閣」を営む大平均社長(67)は「建設前までは、いわきで観光というと湯本温泉など小名浜から離れた場所だった」と振り返る。公園内にタワーや海に突き出た展望台「潮見台」が整備される前は、サルやクマの小動物園や円形の展望台が設置されていたが、「観光」というより、地域に親しまれる公園としての色合いが濃かったという。

 「泊まってくれた観光客もデザインを気にするなど注目を集めていた。タワーを模した瓶でお酒が販売されるなど、盛り上がりもあった」と大平さん。タワーは観光客にもアピールできる地域のシンボル的存在として、日常に溶け込んでいった。

 空に向かって力強く、真っすぐに立つタワーは東日本大震災を乗り越え、地域の復興の様子を間近で見守ってきた。この安心感が、地域の発展をこれからも優しく後押しするのだろう。(矢島琢也)

いわきマリンタワー

 いわきマリンタワー 総面積70万平方メートルの三崎公園内にある展望塔。海から近い園内では、潮風を感じながら散策が楽しめる。海に突き出た展望台「潮見台」は眼下に白波を望める。タワーの営業時間は午前9時~午後5時。入場料一般330円、中学・高校・大学生220円、小学生170円。住所はいわき市小名浜下神白字大作111。問い合わせはいわきマリンタワー(電話0246・54・5707)へ。

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NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。