【建物語】須賀川特撮アーカイブセンター・須賀川市 特撮文化の未来守る

 
特撮関係の貴重な資料が保存、公開されている「須賀川特撮アーカイブセンター」。写真は須賀川の郊外をイメージしたミニチュア(矢内靖史撮影)

 にらむ壁の怪獣

 "特撮の神様"と称される故円谷英二監督の出身地・須賀川市に、特撮文化を守り、継承するための施設「須賀川特撮アーカイブセンター」がある。撮影に使われたミニチュアや模型など約千点の資料、関係者が持ち寄った特撮関係の貴重な書籍などが収められており、外壁には宝物を守るようにオリジナルの怪獣「スカキング」がにらみを利かせている。

 施設は、映画「シン・ゴジラ」などを手掛けた映画監督庵野秀明氏を理事長とするNPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(ATAC、東京)と須賀川市が共同で整備し、2020(令和2)年に開館した。特撮資料を保管・公開する収蔵庫のほか、資料の修復や調査研究を行う作業室、図書室などを備える。"雲の神様"と称される背景画家島倉二千六(ふちむ)氏が手掛けた実物さながらの空の絵や、須賀川の郊外をイメージしたミニチュアも人気を集める。

 ガラス張りの収蔵庫には、円谷監督最後の長編「日本海大海戦」(1969年)で使われた全長約5.7メートルの「戦艦三笠」やウルトラヒーローの人形、メカなどがひしめく。ATACが開館前日まで考え抜いた配置で、ATACの三好寛事務局長(52)は「保管だけではなく、見て楽しんでもらう施設。角度や光の当て方まで細かくこだわった」と思い返す。

 三好氏は「特撮で使われたミニチュアや模型は従来、保管されず捨てられるものも多かった」と語る。庵野氏や「日本沈没」などを手掛けた映画監督の樋口真嗣氏らは2009年ごろから「特撮文化を未来に残していかなければ」と危機感を抱き、資料収集と合わせ保管の協力者を探し始めたという。

 撮影に資料活用

 そうした中、13年に福島空港公園で開かれた特撮イベントをきっかけに、特撮関係者と市の間で保管場所を整備する機運が高まった。庵野氏らが「特撮資料の保管に困っている」と窮状を訴えたところ、市は「円谷監督の生まれた地として協力したい」と快諾。同市の岩瀬農村環境改善センターを改修して設置が決まった。

 講堂は広さ約230平方メートルを誇る収蔵庫に、調理室は作業室に生まれ変わった。一方で憩いの場として2階の和室を残すなど、元々の設備も生かしている。今後の資料保存に役立てる長期的なデータを取るため、収蔵庫では毎日30分おきに温度と湿度を記録。市文化振興課長として設立当時に関わった祓川千寿市民交流センター長(56)は「特撮資料の保存に確立されたノウハウはない。将来のため、守る技術を研究しつつ進歩させるための環境を整えた」と振り返る。

 収蔵された資料の中には、現役の撮影セットとして活用されるビルや電柱の模型などもある。三好氏が「昔の模型を撮影に使うのは、特撮独特の文化だと思う」と語るように、収蔵品は過去の技術や歴史を伝えるだけの遺産ではなく、観衆を作品世界に引き込む舞台装置として今でも活躍している。

 昨年11月には「ウルトラマンZ」を手掛けた田口清隆氏ら特撮監督4人が自主制作映画撮影のため同市を訪問。作業室で怪獣を制作し、収蔵品のミニチュアを撮影に利用するなど施設をフル活用して撮影に臨んだ。須田元大センター長(61)は「特撮を残すために、施設も要望に添って変わっていきたい。ここからがスタート」と強調。特撮文化の未来を守るため、施設は時代に合わせて「変身」し続ける。(秋山敬祐)

須賀川特撮アーカイブセンター

 須賀川特撮アーカイブセンター 2020(令和2)年に開館した特撮文化の推進拠点で、須賀川市がNPO法人アニメ特撮アーカイブ機構(東京)と共同で整備した。収蔵庫では特撮作品の撮影に使われた模型やミニチュアなど約千点を収めている。住所は須賀川市柱田字中地前22。開館時間は午前9時~午後5時。入館無料で火曜日休館。問い合わせは同施設(電話0248・94・5200)へ。

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。