【建物語】久之浜・大久ふれあい館・いわき市 災害時は防災の要に

 
緊急避難できる津波避難ビルとして整備されている「久之浜・大久ふれあい館」

 住民ら市に提案

 いわき市久之浜の海辺から300メートル西に、鉄筋コンクリート3階建ての頑強な建物がそびえ立つ。いわき市地域防災交流センター「久之浜・大久ふれあい館」は、普段は支所・公民館機能を持つ交流施設だが、ひとたび災害が起きれば地域住民が緊急避難できる「津波避難ビル」に様変わりする。まさに地域防災の要だ。

 「津波からの復興をどう進めていくかを考えた市民から提案があった」。建設を担当した市総務部統括主幹・課長補佐の大平佳広さん(48)は当時を振り返る。東日本大震災後間もなく、久之浜・大久地区では住民主体の対策協議会が設置された。復旧や復興に向けた連日の話し合いの中で防災拠点の必要性が叫ばれ、震災から1年後の2012(平成24)年3月、住民らが市に施設整備を要望。約4年後の16年2月に防災とまちづくりの機能を併せ持った施設が完成した。

 同地区では震災で甚大な津波被害を受け、約1万5千平方メートルを焼く火災も発生。関連死や行方不明者合わせ69人が犠牲となった。当時と同じ悲劇を繰り返さぬよう、施設は緊急避難場所として利用される。避難指示に気付くのが遅れたり、体などが悪く避難が遅れた人などが助かる可能性を少しでも高める狙いがある。

 高さ14メートルの同館は、防災機能の固まりだ。大津波による浸水が予想される1階部分の高さは5・5メートルで、通常の建物より高く設定されている。柱を「ハ」の字に傾けることで耐震性、津波の荷重への抵抗力を高めている。ガラス張りになっているのは、津波が来た場合に割れることで、その力をうまく逃がすためだ。

 災害発生時、住民は北、南の2カ所に設置されている階段で屋上などに駆け上がる。職員不在の夜間や土曜、日曜日は、緊急進入路として二つあるドアを蹴破って入ることができる。避難の基準となるよう、各階に付近の海面からの高さを表示している。

 通常、地域団体の教室やイベントで使用する研修室や和室は、災害時に避難スペースとして使用される。半径300メートルの住民260人の緊急避難が可能で、3日分の水や食料を保管した備蓄倉庫、屋上の太陽光発電など非常用発電設備も設けている。

 16年11月の津波警報では実際に緊急避難で利用され、住民が急いでドアを蹴破ったであろう生々しい様子が写真に残されている。今月16日未明に南太平洋・トンガ沖の海底火山の大規模噴火に伴う津波注意報時に避難する住民はいなかったが、職員や消防団員が情報収集する地区本部の拠点としてその機能を果たした。

 震災の資料室も

 2階には震災時の被害を伝える資料室がある。津波や火災による地区の被害状況や教訓を写真や映像、被災した住民の声を交え、鮮明に訴えている。「悲惨な災害を伝えることも施設の役割だ」と、久之浜・大久支所次長の山川亮さん(49)は強調する。
 見晴らしの良い屋上に上がってみる。周辺には新築や修繕されたであろう建物が目立ち、震災での被害の大きさを思い起こさせる。「被害を繰り返さぬように有事の際は行政だけではなく、住民一人一人の意識も重要」と山川さん。支所や集会場所として日常的に住民が集まり、この施設が親しまれることで、震災の風化を防ぐとともに、自然と人々の防災意識が育っていくはずだ。(大内義貴)

久之浜・大久ふれあい館

 久之浜・大久ふれあい館 災害時の防災拠点機能と、いわき市役所の支所・公民館のまちづくり活動拠点機能を集約する施設として整備された。平常時は研修室、和室、調理室などを貸し出している。開館時間は午前9時~午後10時。住所は、いわき市久之浜町久之浜字中町32。問い合わせは同館(電話0246・82・2165)か久之浜・大久支所(電話0246・82・2111)へ。

          ◇

 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。