【建物語】たまかわ観光交流施設「森の駅yodge」・玉川村 宿泊できる元学校

 
1910(明治43)年創立の旧四辻分校を改装した体験型宿泊施設「森の駅yodge」(矢内靖史撮影)

 柱や床は再利用

 福島空港から車を走らせること約15分。たまかわ観光交流施設「森の駅yodge(ヨッジ)」は農村地帯の森を背に立つ。駐車場から坂道を上がった先で出迎えるのは一面ガラス張りのエントランス。モダンな見た目に引き込まれるが、建物の正面に回れば、元は小さな学校だったのだと分かる。

 施設は旧須釜小四辻分校の校舎を改修して整備され、昨年7月にオープンした。建物に足を踏み入れると、左手にカフェ、右手にはキッチン。奥に宿泊室などが続く。真っ白な漆喰(しっくい)の壁に洗練された印象を受ける一方、使い込まれた柱や床の質感から、今にも子どもの笑い声や走る足音が聞こえてきそうな情緒も感じる。館長の馬場健介さん(35)は「柱や床、窓などは当時のもの。傷も基本的にそのままです」と説明する。

 ヨッジは「食」と「アウトドア」をテーマにした宿泊機能付きの施設で、キャンプやテントサウナ、たき火なども体験できる。施設内には、あえてテレビや時計を設置していない。馬場さんは「ゆったりと自分の感覚で過ごしてもらいたい」とその理由を話す。

 「これを見てください」。馬場さんが指した先には宿泊室の窓ガラス。よく見ると「国語」と印字された古びたシールが隅に貼られていた。児童がいたずらしたのだろうか。にぎやかな学校生活が思い浮かんでくる。地域住民向けの内覧会でも話題になったという。馬場さんは「『貼ったの誰だ』って犯人捜しが始まりました。結局、誰がやったかは分かりませんでしたけど」と笑って振り返る。

 新たな交流の場

 四辻分校は1910(明治43)年に創立された。現在活用されている建物は約70年前に建てられたものだ。卒業生で最後のPTA会長も務めた、村地域整備課長の須田潤一さん(57)は「きれいになったけれど、柱や床が当時のものなので懐かしさを感じる」と話す。米ぬかを入れた袋で床を磨いて掃除した記憶があるそうだ。

 須田さんによると、長い山道を通学してくる児童が多かったからか、分校には運動が得意な子どもが多かった。須釜小本校で開かれる運動会の地区対抗リレーでは、紫色の鉢巻きとバトンがトレードマークの四辻地区が1位になることが多かったという。昭和の末からは一輪車を取り入れた学習活動を取り入れ、全国大会などで活躍した。学校では地域一体の行事も開かれた。須田さんは「地域の交流の中心だった」と思い返す。

 しかし児童数は減っていった。戦後には100人近くの児童が在籍していたこともあったが、1960年代後半からは減少の一途をたどり、2004年に休校。最後に在籍していた児童は9人だった。

 07年には閉校となった。施設の北側に立つ閉校記念碑には四辻分校の歴史が記され、こう締めくくられている。「九十七年の歴史に幕を閉じ 新たな出発に希望を託す 願わくは和を以って人情厚き ふるさとの舘と記す」(原文のまま)。記念碑に刻まれた思いをつなぐように、閉校となっても住民は学校を守り続けた。定期的に校舎や敷地の手入れをし、夏祭りや収穫祭を開いた。

 馬場さんは「この建物は地域の人たちのもの」と言う。感染症の状況を見極めながら、住民と村内外の人たちが交流できるイベントを開催していくつもりだ。役割は変わったが、新たな交流の場として建物は生き続ける。(国井貴宏)

森の駅yodge

 森の駅yodge 玉川村が旧須釜小四辻分校を改修して整備した観光交流施設。地場産品を使った料理を提供するカフェや宿泊室があり、敷地内にはトレーラーハウスやキャンプ場も備える。たき火やテントサウナなどを体験できる。定休日は月曜日(祝日の場合は火曜日)。住所は玉川村四辻新田字村中131。電話0247・57・7440。受付時間は午前10時~午後6時。

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。