【建物語】三春交流館「まほら」・三春町 心響き合って一体に

 
ステージ側から見た「まほらホール」。音楽会や演劇、舞踊などが開催でき、ステージと客席の近さが特徴だ

 顔が見える距離

 三春町の中心市街地「大町四ツ角」の一角に立つ三春交流館「まほら」は、三春の街並みを象徴する施設だ。伝統工芸品「三春駒」をイメージした外観が、城下町らしさを演出している。その一方、里山の風景が見られるよう屋根の角度はなだらか。外壁には古木材の風合いのある色を取り入れ、周囲の景観と調和させている。

 芸術文化鑑賞や生涯学習などの多機能施設まほらの建設は、中心市街地活性化の考えに基づく。1989年に策定された市街地整備基本計画で、建設予定地が交流情報ゾーンに位置付けられた。その後、行政と町民が話し合いを重ね、「地方小都市で手に余らない、身の丈に合った施設」の建設構想を練り上げた。2003年にオープン以来、さまざまな事業を展開している。施設は、盆踊りや三春だるま市の際に歩行者天国になる「大町おまつり道路」や、歴史情緒あふれる「磐州通り」に近く、地区一体がにぎわいを生み出す空間となっている。

 まほらでのイベント運営には、町全域の区長会や、まちづくり協会の推薦を受けた町民らでつくる「三春交流館運営協会」が携わっている。メンバーが事業を企画し、当日のスタッフも務める。行政と町民が協働して運営するのは県内でも珍しい。開館以来の出演者の顔ぶれは豪華だ。日本フィルハーモニー交響楽団や落語家の三遊亭楽太郎(現円楽)さんなど、枚挙にいとまがない。「大物」出演者を引き付ける鍵は、まほらホールの音響効果にある。

 ホールは東京のサントリーホールを参考に設計された。反響板や幕を使い、音が止まった後でも音が聞こえる「残響」の時間を調整している。例えば、クラシックコンサートでは残響時間を長め、寄席や演劇では逆に短めにすることで、それぞれの音の特性を観客に効果的に伝えることができるという。

 客席は404席と周辺自治体のホールに比べて少なく、舞台と客席の距離は近い。客席の規模は「身の丈に合った施設」を目指した結果でもあるが、これが「演者と観客の一体感」を生んだ。町生涯学習課の佐久間久美さん(55)は「顔が見える距離なので、芸術が心にまで響く。観客も演者も一人一人が満足できるホールです」と胸を張る。

 世代超え人集う

 「舞台の主役」はプロだけではない。例えば地元のアマチュアバンド「ロッキーチャック」の公演では、ほぼ満席になった。取材で訪れた記者は、約400人が往年のフォークソングに熱狂する光景が忘れられない。また、ピアノの名品「スタインウェイ」を備え、子どもたちのピアノの発表会のほか、小学生の芸術鑑賞教室、中高校生の音楽発表や演劇コンクールにも使われている。ホール以外も、町民の文化作品の展示などに活用する生涯学習教室、会議室などがある。用途は多岐にわたり、世代を超え多くの人が集う。コロナ禍で利用に制限もあるが、佐久間さんは「幅広い世代や町外の人も訪れ、大切に使ってもらっているので、開館から15年以上たった今も新しさがある。これからも交流の場であり続けてほしい」と願う。

 まほらは、整っているという意味の「真秀(まほ)」に、場所を示す「ら」を付けた名称。全体的には「優れた場所」を表す古語になる。地域活性化のために知恵を絞り出した町民たちが施設に託した志は高い。(富山和明)

三春交流館「まほら」の地図

 三春交流館「まほら」 まほらホールや小ホール、展示スペースとして使える「ホワイエ」、楽屋、学習室、和室を備えている多機能施設。災害時には避難所にもなる。三春町出身で、日本を代表する建築家だった故大高正人さんが設計した。まほらホールと小ホールは使用する1年前から予約を受け付けている。開館時間は午前9時~午後9時。住所は三春町字大町191。問い合わせは同施設(電話0247・62・3837)へ。

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 NHKラジオ第1「こでらんに5 next」で毎週木曜にコラボ企画

 建物語は福島民友新聞社とNHK福島放送局の連携企画です。NHKラジオ第1で毎週木曜日に放送される『こでらんに5 next』(休止の場合あり)のコーナー「ふくしま見聞録」で紹介される予定です。